本年度は分析感度に強い影響をおよぼす信号対雑音比を向上させるため、ハードウェアおよびソフトウェアに関連した開発を行った。ハードウェアにおいては、昨年度までに実施した基礎試験により、撮像装置の一部である高速度CMOSカメラが撮像時のセンサーからの発熱により内部温度が変動し、わずか数度の温度変化でもセンサー内部に暗電流が増加し画像中の雑音となって画質を悪化させ、分析精度の低下につながることが課題として見出されていた。そこで、複数の空冷装置を組み合わせた冷却機構(カメラ内臓型空冷及びカメラ外側からの二つの空冷機構)を構築し、At-211の半減期である7時間以上の計測を行った場合でも、カメラのセンサー温度を設定値から0.9度以内で制御可能とし雑音の増加を無視できるレベルまで低減させた。また、ソフトウェアではAt-211試料からの可視光と雑音を同時に撮像した画像を取得し、オンラインでAt-211領域にのみFittingをかけることで信号と雑音を判別させた。以上の開発から、分析のために取得したAt-211画像の雑音を低減化し、信号対雑音比を向上させることで分析の短時間化及び高精度化に成功した。 また、本研究を実施するにあたり、一般的に化合物の検出に用いられるマンガン活性化ケイ酸亜鉛入りの薄層クロマトグラフィーを用いたところ、マンガンによりα線の放射能を定量可能である事を偶然発見し、特許出願を行った。この発見により、薄層クロマトグラフィーにより展開中の試料のα線を可視化することが原理的に可能となり、化合物の化学形の異常や滴下位置のずれを識別することで再分析の必要性を早期に判断可能となり高い波及効果が期待できる。
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