研究課題/領域番号 |
20K08151
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
草野 陽介 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, その他 (40619665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膵臓がん / coverage / 消化管ガス / 腫瘍の位置変化 / 患者位置決めソフトウェア / robust planning |
研究実績の概要 |
粒子線は鋭いピーク状の線量分布を形成する放射線であり、正常臓器への線量を低く抑え、腫瘍へ線量を集中的に付与できる。その反面、体格変化や体内変化(消化管ガスの発生)などにより飛程がずれると腫瘍線量が低下し、周辺の正常臓器にダメージを与える可能性がある。本研究はこの課題を解決し、治療成績の向上を目指して実施し、『第1期(2020年4月~2021年9月)』と『第2期(2021年10月~2023年3月)』の2段階に分けて進めている。 2021年度は、本研究の基礎データとなる膵臓のデータを追加解析し、統計数を増やした。この結果をもとに「膵臓がんの炭素線治療における消化管ガスの影響と治療計画立案法」に関する論文を投稿中である。さらに、基礎データとして前立腺(患者10名)について、膵臓と同様に腫瘍と正常臓器の位置変化、腫瘍と正常臓器に付与される線量の変化を解析した。 膵臓および前立腺の基礎データの取得と並行して、2020年度に実施した患者位置決めソフトウェアの基本設計をもとに患者位置決めソフトウェアを製作した。本研究では、研究コスト削減および将来的な治療運用を視野に入れ、治療計画装置(Monaco for carbon)を使用することとした。治療計画装置は薬事承認を受けた医療機器であることから、治療計画装置とのインターフェース部は治療計画装置メーカーへ発注し、計算体系を整備した。2022年4月の時点で計算環境の整備が完了し、現在はソフトウェアの微修正を行っている。2022年度は、現在投稿中の論文に対する各種対応と、これまでに取得した基礎データを使って実証実験を行う予定である。この結果をもとに、2023年3月までに患者位置決めソフトウェアについての論文を投稿することを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、第1期(~2021年9月)と第2期(~2023年3月)に分けて実施している。2022年度は第2期にあたり、「線量分布をベースとした患者位置決めシステム(線量基準照合法)」の実証実験が課題となる。 第1期に相当する2020年度は、1)基礎データの取得、2)患者位置決めソフトウェアの基本設計を行った。基礎データの取得では対象を膵臓がん(患者10名)とし、腫瘍の位置変化、腫瘍の線量評価(coverage評価)、正常臓器の線量評価を行った。その結果、膵臓がんの炭素線治療では消化管ガスの影響が無視できないことが処理過程で判明した。この問題を解決するため、消化管ガス量の変化に強い治療計画立案法を考案し実証し、論文を投稿した。そして、患者位置決めソフトウェア基本設計書をまとめた。 第1期と2期に相当する2021年度は、基礎データの取得および患者位置決めソフトウェアの製作を行った。2020年度に投稿した論文で統計データ数の不足を指摘されたため、膵臓の基礎データを追加で処理した。さらに、患者位置決めソフトウェアの実証実験で使用するためのデータとして、前立腺(患者10名)の基礎データを処理した。並行して、2020年度に作成した「患者位置決めソフトウェア基本設計書」をもとに、患者位置決めソフトウェアを製作した。治療計画装置は薬事承認を受けた医療機器であることから、治療計画装置とのインターフェース部は治療計画装置メーカーへ発注し整備した。2022年4月に計算環境の整備が完了した。 第2期に相当する2022年度は、現在投稿中の論文に対する対応と、これまでに取得した基礎データを使って患者位置決めソフトウェアの実証実験を行う予定である。この結果をもとに、2023年3月までに患者位置決めソフトウェアについての論文を投稿することを目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに膵臓がん(患者10名)および前立腺がん(患者10名)の基礎データを取得した。そして、患者位置決めソフトウェアの実証実験を行うための計算環境を整えた。基礎データの取得時に確立した「膵臓がんの炭素線治療における消化管ガスの影響と治療計画立案法」に関する論文は、2022年8月までに受理されるように対応する。そして、これまでに取得した膵臓がんおよび前立腺がんの基礎データおよび製作した患者位置決めソフトウェアを使って計算処理を実施する。得られた結果は、他の手法(3D-2D骨照合およびtarget matching)での結果と比較し評価する。そして、得られた結果をもとに、2023年3月までに患者位置決めソフトウェアについての論文を投稿することを目標とする。 最終的に、治療システムとは切り離した状態となるが臨床現場に設置し、ルーチン作業での運用が可能か評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では線量分布をベースとした患者位置決めソフトウェアを製作し、計算処理能力の高い計算機端末(以下、専用PCと記述)上で稼働させて研究を進める予定である。 2020年度に実施した基本設計時点では、ソフトウェア製作と専用PC購入に必要な費用が2021年度の研究予算(支払金額)を上回ることが予想されていた。そのため、2020年度の研究予算を2021年度に繰り越すことで不足分を補うこととしていた。 ソフトウェアは問題なく製作できたが、昨今の半導体不足、価格高騰により専用PC購入金額が想定を上回ってしまい、2021年度に専用PCを準備できなかった。そのため、繰り越しの研究費と2022年度の研究予算を専用PCの購入および論文投稿費の支払いに使用することとした。
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