研究課題
2020年度は、2019年に収集した小児下痢症患者由来大腸菌135株について、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)CTX-M遺伝子、腸管凝集性大腸菌(EAEC)AggR遺伝子の保有状況を調べた。また、CTX-M遺伝子保有株については、髄膜炎・菌血症と関連するK1莢膜遺伝子についても検討した。CTX-M遺伝子は8株(6%)、AggR遺伝子は6株(4.4%)が保有していたが、両遺伝子を保有する株はなかった。K1莢膜遺伝子は、CTX-M遺伝子保有8株中1株(12.5%)が保有していた。CTX-Mタイプは、CTX-M-14が4株、CTX-M-27 が4株であり、そのうちCTX-M-27の3株はO25/ST131(Clade C1)だった。また、2018~2020年に鹿児島大学病院等で全年齢の患者の血液から分離された大腸菌96株と髄液由来3株の99株についても、O抗原型を調べ、薬剤耐性遺伝子と病原遺伝子の検出を試みた。O血清群は、untypable (UT) 36株(36.4%)、O25 15株(15.2%)、O6 14株(14.1%)、O1 11株(11.1%)の順に多く、系統群はB2が75株(75.8%)を占めた。K1莢膜遺伝子は25株(25.3%)が保有しており、O1/O18に偏在していた。CTX-M遺伝子は13株(13.1%)が保有しO25が多かったが、K1莢膜遺伝子を保有する株はみられなかった。小児腸管由来大腸菌および血液・髄液由来大腸菌ともに、さまざまな大腸菌の系統群がみられ、薬剤耐性遺伝子と病原遺伝子の水平伝播が進みつつある。特に、薬剤耐性遺伝子と病原遺伝子を併せ持った病原性の強い薬剤耐性大腸菌の出現に注意が必要である。
2: おおむね順調に進展している
小児下痢症患者由来大腸菌の収集は順調に進んでいる。2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大で一時株数の減少が懸念されたが、協力医療機関を増やすことで対応した。それに伴い大腸菌からの薬剤耐性遺伝子と病原遺伝子の検出は予定どおり行えている。バイオフィルム形成能とCTX-M遺伝子保有プラスミドの伝播実験は、研究代表者が鹿児島県の新型コロナウイルス感染症への対応に従事していたため十分実施できなかった。
小児下痢症患者由来大腸菌で検出されるCTX-M遺伝子保有株の中で比較的多くみられるO25/ST131については、CTX-Mタイプとclade解析を行い、主要なクローンの推移を見る予定である。また、EAECのバイオフィルム形成能とCTX-M遺伝子保有プラスミドの伝播実験を実施し、水平伝播を促進するメカニズムの探索を開始する。さらに、成人の血液由来大腸菌の収集も進んでいるので、小児腸管由来大腸菌の系統との比較を行い、大腸菌の多様性とダイナミズムを検証したい。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、研究代表者が鹿児島県内の感染制御活動に従事せざるをえず、予定していた実験の一部を実施できなかったため。また、予定していた国際学会や国内学会の多くが新型コロナウイルス感染症の影響で中止になったため。令和3年度は、令和2年度に予定していたバイオフィルム形成能とCTX-M遺伝子保有プラスミドの伝播実験のための消耗品の購入と、ハイブリッド開催予定の学会参加のための旅費に予算を使用する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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