研究課題/領域番号 |
20K08164
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
水口 剛 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (90404996)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ロングリードシークエンサー / てんかん / Structural variant / リピート病 |
研究実績の概要 |
本課題ではロングリードシーケンサーを駆使した疾患ゲノム解析法を確立し、てんかんの新たな遺伝要因を明らかにすることを目指している。昨年度に確立したロングリード解析系を患者検体に適用し、遺伝要因の解明に努めた。まず後期発症のてんかんとして良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)疑いの29家系を集積した。BAFMEの既知遺伝子SMAD12のリピート伸長変異をスクリーニングしたところ76%(22/29)でリピート伸長変異を同定した。SMAD12遺伝子スクリーニング陰性7症例について全エクソーム解析(WES)を実施したが病的SNVは同定されなかった。これら既存の解析法で未解決の7症例についてNanopore ロングリード全ゲノムシーケンス (WGS) を実施した。既存の解析法で検出が困難であるリピート伸長変異、構造変異についてゲノムワイドに探索を行ったところBAFME7型の原因遺伝子RAPGEF2(1例)、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病の原因遺伝子CSTB(1例)にリピート伸長変異を同定することができた。小児難治性てんかんについてもWES未解決症例を対象に、ロングリード全ゲノムシーケンスを実施し、Intellectual developmental disorder with dysmorphic facies and ptosisの原因遺伝子であるBRPF1の断裂を伴う病的逆位を同定できた。コピー数変化を伴わないcopy neutralな構造異常で、ロングリードを用いることで初めて検出可能であった。上記の成果で示されるように未解決症例の遺伝要因を解明するうえでロングリード全ゲノム解析の有用性を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、集積した検体についてロングリード全ゲノム解析を行い、一部の症例については既存の解析法で検出が難しいリピート伸長変異、構造異常を同定する事ができた。また同定したリピート伸長変異についてロングリードターゲットシーケンスを行うことで、リピート伸長変異全長の高精度な配列決定にも成功し、リピート構造の多様性を明らかにした。これらはロングリード解析の遺伝医学への応用やリピート伸長変異の病原性の理解につながる成果であり、本課題の到達目標に向けて順調に環境をセットアップできている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も全エクソーム解析で未解決の症例を対象にロングリード全ゲノム解析を継続する。 解析症例の選択が重要となるが、てんかん以外の多彩な臨床症状を合併する症例、罹患同胞の存在する症例、臨床的に類似の症例群を中心に展開していく予定である。また大量に検出されるStructural variants (SVs)の解釈には多数のコントロールデータが必要となる。近年充実してきたgnomAD-SVやHuman Pangenome Reference Consortiumなどの公共データベースを用いることで病的異常の効果的な抽出を行う。また、これまではロングリードの特徴を最大限に活かせるStructural variants (SVs)とリピート伸長変異に特化して解析を行ってきたが、PacBio のcircular consensus sequencing (CCS) 法を用いることで1リードあたり99.9%(Q30)以上の精度が達成されることが確認できたため今後、single nucleotide variants (SNVs) 解析も検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はデータ解析を中心に研究を推進したことから実験試薬の購入に未使用額が生じた。当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、研究進捗状況に応じた物品購入の執行を行う予定である。
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