研究実績の概要 |
X染色体不活性化(X chromosome inactivation, XCI)は、女性のもつ2本のX染色体のうち1本を染色体全体で不活性化する遺伝子量補償機構である。ヒトでは、XCIは着床周辺期に確立し、その後の細胞増殖を経ても安定に維持される。通常、XCIはランダムに起こるため、女性は母親由来のX染色体が機能する細胞と、父親由来のX染色体が機能する細胞が同等の割合で存在するモザイクとなる。XCIの適切な制御は、発生初期から老年期まで生命の恒常性維持に重要であり、その乱れは様々な疾患に関わる。例えば、XCIの乱れは、X連鎖性疾患の発症や重症度に大きな影響を及ぼすことが知られている。さらに、近年の疾患コホート研究から、XCIの乱れが、不妊症や流産、精神神経疾患、がん、さらに加齢性疾患に関わる可能性も指摘されてきている。このため、XCI制御機構の理解は医学的に重要である。ところが、倫理的な制約や技術的な問題もあり、ヒトではXCIがいつ・どのように生じ、一生涯にわたって安定に維持されるのか、また、その制御の乱れが個体にどのような影響を及ぼすのかなど、不明な点が数多く残されている。そこで本研究では、ヒトの初期胚モデルを構築し、ヒトにおけるXCIの制御機構を解明することを目的とした。本研究の成果は、ヒトの生命現象に関わるXCI制御機構の理解を深めるのみならず、疾患の原因解明や、新たな診断法や治療法の創出にも貢献すると期待される。
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