Sotos症候群 (SS) は、知的障害を伴う過成長症候群である。原因遺伝子は、ヒストンH3リジン36メチル化酵素をコードするNsd1遺伝子であり、そのハプロ不全によって発症する。過去にNsd1のノックアウトマウスが作製された。しかし、ハプロ不全に相当するヘテロ欠損マウスの表現型は正常であり、一方、ホモ欠損マウスは胚性致死を示した。つまり、現在のところ、SSのモデルマウスは存在しない。本研究では、大脳皮質と海馬においてNsd1をノックアウトしたマウスを樹立した。このマウスは、ヘマトキシリン染色による組織学的解析とMRI解析のよって、歯状回の短縮を伴う海馬面積の縮小、脳梁頭尾長の短縮、脳梁膨大部の菲薄化、側脳室の拡大を認めた。また、行動表現型解析では空間記憶の低下を示した。これらのことは、SSのモデルマウスとしての有用性を示している。次に、これら表現型の原因となる分子メカニズムを解明するために、組織学的に明らかに異常を認める海馬に焦点を当てた。海馬の成熟神経核を用いて、網羅的エピゲノム解析と遺伝子発現解析を行った。結果、コントロールに比べて、ノックアウトマウスでは、1549個の遺伝子の発現が上昇し、908個の遺伝子の発現が低下していた。この中から大きく発現変動を示したTop5の遺伝子に注目した。遺伝子の発現が低下した遺伝子では、プロモーター領域やエンハンサーと思われる領域のH3K27acの低下が認められた。一方、発現が上昇した遺伝子では、プロモーター領域のDNAメチル化の低下が認められた。また、これら遺伝子の中に、表現型と強く関与すると思われる遺伝子を同定した。今後、バイオインフォマテクスを駆使して、さらなる分子メカニズムの解明を行う予定である。
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