研究課題/領域番号 |
20K08185
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
細矢 光亮 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80192318)
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研究分担者 |
橋本 浩一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (50322342)
佐藤 晶論 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (60423795)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウイルス関連急性脳症 / 血液脳関門 / タイトジャンクション / 血管透過性 |
研究実績の概要 |
ウイルス関連急性脳症(VAE)は、インフルエンザウイルスやヒトヘルペスウイルス、RSウイルス、ロタウイルスなどの一般的なウイルス感染後に発症する重篤な合併症の一つであり、急激な意識障害や痙攣を伴う。現在VAEは高サイトカイン血症により脳内深部の血管透過性が亢進し、血管周囲へ血液成分が漏出することで、血管周囲の脳組織が浮腫に陥り、二次的に神経細胞やグリア細胞がアポトーシスに陥ると考えられているがその詳細は不明である。本研究ではヒト脳血管内皮細胞(HBMECs)とヒト脳血管周皮細胞を専用プレートの上下層にそれぞれ播種して作成した3次元血液脳関門モデルに、炎症性サイトカインであるTNF-αを添加することで、ウイルス関連脳症(VAE)モデルを作成した。このVAEモデルにVAEの増悪因子と考えられているNSAIDsを添加し、バリア機能の動的、質的変化を解明することで、VAEの血管内皮細胞障害に対する有効な治療戦略を検討しようとするものである。これにより、各種サイトカイン、薬剤の血管透過性への影響、さらにタイトジャンクションへの作用が明らかになり、VAEの詳細な病態解明、有効な治療法の確立につながると予想される。 昨年度に引き続き、VAEモデルにTNF-α濃度を0.1~10ng/mLの範囲で添加し、さらに各種非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)を添加し、傍細胞透過性への影響を検討した。VAEモデルにおいて、DCF、MEFによりイオンに対するバリア機能、マクロ分子に対するバリア機能どちらも障害を受けることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、VAEモデルにTNF-α濃度を0.1~10ng/mLの範囲で添加し、さらに各種非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)を添加し、傍細胞透過性への影響を検討した。マクロ分子の透過性を測定する方法として、溶質透過性試験を、イオン分子の透過性については経内皮電気抵抗値(TER)測定により検討した。NSAIDsとしては、ジクロフェナクナトリウム(DCF)、メフェナム酸(MEF)、イブプロフェン、セレコキシブ、インドメタシンを用いた。また、インフルエンザによる発熱時に安全に使用できるとされているアセトアミノフェン(ACE)についても検討した。TNF-α存在下では、DCF、MEFを100μM添加することで、溶質透過性は亢進し、TERは低下した。一方その他のNSAIDs、ACE添加では有意な変化は見られなかった。つまり、VAEモデルにおいて、DCF、MEFによりイオンに対するバリア機能、マクロ分子に対するバリア機能どちらも障害を受けることが判明した。しかし、TNF-αの濃度とバリア機能の障害には相関は見られなかった。このバリア機能障害の原因を探るために。HBMECsの細胞障害性について生細胞測定、LDH測定により細胞障害性を検討した。昨年度はこの検討により細胞障害を認めなかったが、測定条件(培地中の血清濃度、薬剤暴露時間、TNF-α添加からNSAIDs添加までの時間)などを再検討したところ、TNF-α存在下で、DCF、MEF濃度依存性に細胞障害が強くなることが証明された。これらのことにより傍細胞透過性に細胞そのもののダメージが影響することが示唆された。 今年度の目標としていた、VAEモデルに各種薬剤を添加した際の透過性の動的評価、機能的評価を概ね行うことができ、細胞障害性について詳細な検討を追加することができたため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス関連急性脳症では血液中で様々なサイトカインが産生される。今後はTNF-αの他、IL-6、IFNγなどVAEモデルに添加するサイトカインの種類を増やし、より詳細に透過性への影響を検討するとともに、ウイルス関連急性脳症の病態解明につなげたい。さらに血液脳関門のバリア機能の維持に重要な細胞間接着装置(タイトジャンクション、アドヘレンすジャンクション)を構成する因子について、各種サイトカインや各種薬剤によるの発現や局在の変化について、リアルタイムPCR、ウェスタンブロット、蛍光免疫染色などの手法を用いて検討する。また、VAE治療薬として期待される、ステロイド剤などの免疫抑制剤、抗サイトカイン抗体、抗アポトーシス薬、または細胞間接着装置の形成を促進させ血管透過性を改善させうる薬剤(cyclic AMP、フォスフォジエステラーゼ阻害剤、エストロゲン)などがVAEモデルの透過性の改善につながるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19流行により、予定していた国内の学会がオンライン開催となったため、旅費の支出が滞ったたため次年度使用額が生じた。次年度は国内学会に積極的に参加すると同時に、本研究課題が最終年度となるため研究を進め論文執筆につなげる。繰り越し分の助成金は試薬の購入、論文作成のための、英文校正費、投稿費用に使用する。
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