研究課題/領域番号 |
20K08186
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
谷田 任司 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30589453)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | LRPGC1 / ERRγ / エネルギー代謝 / 海馬初代培養系 / ニューロン / 乳酸 / ミトコンドリア / TFAM |
研究実績の概要 |
エネルギー代謝系は細胞・組織から個体レベルの各階層で生体恒常性を維持すると共に正常な心身の発達・発育にも不可欠であり,その破綻は様々な代謝異常やそれに伴う精神遅滞などに結び付く。代謝の各段階を調節する酵素系の遺伝子発現は転写因子によって制御され,生体内外からの刺激,ストレスやその時々のエネルギー要求などに応じた転写調節がなされる。一方,このような環境/状況などの変化に応じた遺伝子発現の制御機構には不明点が多い。 最近我々はエネルギー代謝を担う転写共役因子PGC1αのバリアントをラット脳より見出し,乳酸によって核移行するという特性からLactic Acid-Responsive form of PGC1(LRPGC1)と名付けた。LRPGC1はオーファン核内受容体(転写因子)であるERRγを介してミトコンドリア転写因子A(TFAM)遺伝子の発現を誘導し,ミトコンドリアを活性化させ乳酸代謝を促進することを既に見出している。本年度は,HepG2細胞より作製したPGC1ノックアウト細胞を用い,乳酸存在下ではPGC1αよりもLRPGC1がTFAMタンパクを顕著に増加させることを示した。また,ERRγと相互作用できないLRPGC1変異体はTFAMタンパクを増加させず,ERRγのノックダウンによりTFAMタンパクは減少した。これまでの知見と合わせると,LRPGC1はPGC1αとは異なる機能を持ち,LRPGC1/ERRγ/TFAM経路は乳酸存在下でミトコンドリアを活性化させ,乳酸代謝を促進することがより明確となった。 このLRPGC1の神経系における機能を明らかにするためeYFPとLRPGC1の融合タンパクをラット海馬初代培養ニューロンに発現させた所,突起伸長が有意に促進されたので,LRPGC1の神経系における乳酸利用への関与を推察した。より詳細な形態観察のために,蛍光タンパク(AcGFP,ZsGreen,DsRedなど)とLRPGC1およびその関連因子,変異体等とを共発現するバイディレクショナル発現システムの構築に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内外の環境変化に応じた転写制御機構を明らかにし,代謝リプログラミングとの関連性に迫りたいと考えている。これまでの研究成果を基盤に,乳酸によるLRPGC1の核移行とERRγとの相互作用,そしてこれらに続く乳酸代謝の促進を明らかにした。以上より,本研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
バイディレクショナル発現系を用いて神経系におけるエネルギー代謝関連因子の役割,特に突起伸長や樹状突起スパインの形態変化に対する機能を明らかにするために,クローニングや変異導入などベクター構築を行い,ラット海馬初代培養系への遺伝子導入について検討する。まずエレクトロポレーション法から検討を開始し,上手く行かない場合はアデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子導入を検討する。過剰発現系により一定のデータが得られた後は,shRNAを用いたノックダウン系の構築に着手する。乳酸やケトン体など,有機酸の神経系への作用についても同培養系を用いて検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大に関わる講義ならびに実習スケジュールの大幅な変更に伴い,実験のスケジュールも変更された。また,代表者自身の異動に伴い事務処理作業が想定以上に増した。結果的に,当初の予定ほど予算を使用しなかった。予算の残余は次年度に持ち越し,抗体や試薬などの消耗品を購入するために使用する。
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備考 |
代表者は2021年4月に京都府立医科大学から大阪府立大学に異動。
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