研究実績の概要 |
研究期間全体での概要を以下にまとめる。 ①ニューロンの生育における解糖系や乳酸など有機酸との関連性を探る目的で,ラット海馬由来初代培養系での検討を行った。グルコース(-)/インスリン(-)条件下において乳酸,ピルビン酸,モノカルボン酸トランスポーター阻害剤(4-CHCA)等を添加した際のニューロンの形態を抗MAP2蛍光染色およびFluorescein-Phalloidin染色を施して観察したところ,まだプリリミナリーな状態ではあるが,乳酸やピルビン酸の添加によりグルコース(-)でも形態学的にはグルコース(+)と同程度の突起伸長が認められた。一方,4-CHCAを添加すると乳酸添加群で認められた突起伸長が抑制されたことから,ニューロン内に取り込まれた乳酸が呼吸基質となって突起伸長を促すことがより明確に示唆された。 ②エネルギー代謝を制御するオーファン核内受容体ERRα, β, γのうち海馬CA1領域に豊富に存在するERRαは弱アルカリ性条件において顕著な核外移行を示した。現在,アルカリ応答性核外移行の制御領域として核外輸送シグナル(NES)のコンセンサス配列とは全く異なるERRα特異的なアミノ酸配列を見出しており,メカニズムの詳細を解析中である。 ③ラット視床下部より見出した乳酸応答型転写共役因子Lactic Acid-Responsive Form of PGC1(LRPGC1)は,通常細胞質に分布するが乳酸によりNESが不活性化されることで細胞質から核へと移行し,核内においてERRγとの相互作用を介してTFAM遺伝子の発現を促進し,その結果ミトコンドリアを活性化することで乳酸代謝を促進することが明らかとなった。 ④ERRはいずれのサブタイプ(α,β,γ)も核マトリクス結合タンパク質SAFB1と相互作用することで核内における可動性が低下し,その結果転写が抑制されることが判明した。
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