研究課題/領域番号 |
20K08195
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
鐘ケ江 裕美 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80251453)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / アデノウイルスベクター / ムコ多糖症VII型 / GUSB遺伝子 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集による遺伝子治療は、究極の遺伝子治療法として期待されているが、危惧されているoff targetだけでなく、低いゲノム編集効率により充分な治療効果が得られない問題も指摘されている。そこで、体細胞のほとんどを占める静止期細胞では効率の悪い相同組換えに依存しないゲノム編集機序に立脚したHITI(homology-independent targeted integration)法、PITCh(Precise Integration into Target Chromosome)法を遺伝子導入効率の高いアデノウイルスベクターを用いて試みることが本研究の目的である。対象疾患としては。β-glucuronidase異常によりムコ多糖が蓄積し重篤な症状を示すことが知られているムコ多糖症VII型(Sly病)を選んだが、本研究成果は他の遺伝病へのゲノム編集治療法にも有用であると考える。 本年度は、まずAdVによる炎症を最小限に留める「低炎症型AdV」のCas9の作製及びAAVなどによる遺伝子治療で実績のある肝臓細胞特異的に高度にCas9を発現する「肝臓細胞特異的高度短期間Cas9発現システム」構築を行った。低炎症型Cas9高度発現AdVの作製は、力価が従来よりも低いものの作製には成功した。後者のシステムは、申請者の独創的なシステムである「切り出し発現AdVシステム」を用いて構築した。これは、肝臓細胞特異的プロモーターであるアルブミンプロモーターからCreを発現するAdVとCre依存的に肝臓細胞でのみ生成する環状分子からCas9及びNickase Cas9を発現するAdVを感染する系であり、肝臓細胞特異的かつ高度にCas9が発現することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Sly病モデルマウスGUSB遺伝子コード領域に置けるHR法によるゲノム編集の検討を進めた。マウスGUSB遺伝子コード領域のゲノム配列をシークエンスしてguide RNAを設計したが、シークエンスに間違いがあり、intronの重要なアミノ酸がゲノム編集後変異することが明らかになったため、再度guide RNAの設計を行うこととし、今後HITI法やNHEJ法にも転用可能な領域に複数のguide RNAを設計した。 また、これまではCas9発現のプロモーターとしてCBhプロモーターを用いていたが、今後マウスへの応用を考えEF1αプロモーターからCas9及びNickase Cas9を発現する「低炎症型AdV」の作製を行った。Cas9発現AdVの作製は通常極めて困難であることが知られており、今まで使用していたCBhプロモーターのCas9-AdVと比べて力価が低下したものの、EF1αプロモーターからCas9を発現するAdVの作製に成功した。 更に、肝臓細胞特異的にCas9を発現するシステムを構築し、肝臓特異的かつ高度にCas9を発現することを確認した。シークエンスミスなどの予期せぬ事態や、EF1αプロモーターからCas9を発現するAdVの作製を何度か試みるなどの問題は起こったものの、最終的に今年度予定していた研究の計画は全て完了した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に複数のguide RNA候補の作製とCas9発現AdVの作製に成功した。2021年度からは、HR法で最も効率のよりguide RNAの同定を行うと共に、HITI法とPITCh法のguide RNA設計を行う。その後、これらを発現する組換えアデノウイルスベクターの作製を開始する。Sly病モデルマウス由来の繊維が細胞は既に入手しているので、その細胞でのHR法、HITI法及びPITCh法によるGUSB遺伝子修復効率の比較検討を進めていく。 また、2020年度に構築した「肝臓細胞特異的高度短期間Cas9発現システム」を用いて、マウスの肝臓細胞におけるゲノム編集効率の検討、モデルマウスの治療効果の検討を進める予定である。
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