研究課題
本申請研究課題は、申請者らがこれまでに当研究所で蓄積してきた神経芽腫研究に関する知的財産および研究室が確立しているゲノム解析技術を活用し、神経芽腫細胞株におけるミトコンドリアの異常の同定と、これらが『自然退縮』へと繋がるBMCC1依存的なミトコンドリア経路の細胞死に与える影響の理解およびBMCC1の発現低下と協調した神経芽腫悪性化機構の解明を目的とする。初年度にあたる令和2年度は、神経芽腫細胞株のミトコンドリア異常の検索を行った。ミトコンドリアDNAは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体を構成する13遺伝子をコードしており、これら遺伝子の変異がミトコンドリアの機能異常に繋がることが知られている。そこで、18種類の神経芽腫細胞株についてミトコンドリア異常に結びつくミトコンドリアDNA変異の有無を明らかにするため、全長が約16キロ塩基対あるミトコンドリアDNAの塩基配列を次世代シークエンサーにて網羅的に解析する手法を独自に確立した。次に、確立した技術を用いて神経芽腫細胞株から抽出したDNAについてライブラリーを作成し、ミトコンドリアDNAの塩基配列を網羅的に解読した。神経芽腫のドライバー遺伝子として知られるMYCNの増幅細胞株および非増幅細胞株の両者について解析を行い、ミトコンドリアDNAに生じた遺伝子異常を比較検討した。なお、本研究の柱となるミトコンドリアDNA解析技術の開発に関連し、次世代シークエンサーを用いた核内ゲノム解析研究成果の一部について、責任著者として1件の学術論文発表を行なうとともに共同演者として3件の国内学会発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
神経芽腫の悪性化と自然退縮メカニズムの理解を目指し、その鍵となる分子のBMCC1およびBMCC1の機能関与が示唆される細胞内小器官のミトコンドリアに着目した研究を推進した。本年度は、次世代シークエンサーを用いたミトコンドリアDNAシークエンス法の確立に成功し、この手法を用いて神経芽腫細胞株のミトコンドリア遺伝子異常の網羅的な検索を完了した。現在、得られた遺伝子変異のサンガーシークエンス法による確認ならびにそれをもとにした細胞株の分類に移っており、本研究課題は概ね順調に進展している。
今後は、同定したミトコンドリアDNAの変異を手がかりに、神経芽腫細胞株毎のミトコンドリア異常の実態を明らかにする。さらに、ミトコンドリア異常を指標として神経芽腫細胞株の分類を行い、神経芽腫細胞の悪性化への寄与ならびにBMCC1依存的なミトコンドリア経路の細胞死に与える影響の理解につなげる。
次年度使用額が生じた理由は、コロナの影響で交付時期が遅れて研究期間が短かったこと、また学会がオンライン開催であったため旅費に経費を使わなかったことが挙げられる。次年度は、他年度と比較して交付金額が少ないため、繰越金は研究を進めるための試薬購入に充てる。
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Oncology Reports
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