研究課題/領域番号 |
20K08201
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
土岐 力 弘前大学, 医学研究科, 講師 (50195731)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダウン症 / 白血病 / RUNX1 |
研究実績の概要 |
ダウン症では新生児の5~10%に一過性骨髄異常増殖症 (TAM) という白血病に似た疾患が発症する。多くは自然寛解するが、約20%は白血病 (ML-DS) へ進展する。この特異な経過は白血病発症のメカニズムを解明する上で重要だと考えられる。我々は, TAMとML-DSの遺伝子解析を行い、TAMはトリソミー21とGATA1遺伝子の変異により生じ、ML-DSへの進展には、これにコヒーシンやエピジェネティック制御因子などの変異が加わることを明らかにした。本研究では、進展に関わる変異の中で、RUNX1遺伝子変異に注目した。RUNX1遺伝子は21番染色体にあり、二量体で働く転写因子CBFのサブユニットをコードする。2つのプロモーターと選択的スプライシングにより, 3つのアイソフォーム AML1a、AML1b、AML1cが存在する。AML1aとbは造血の全体(胚型・成体型)で機能し、AML1cは成体型造血で機能する。我々が発見した変異は AML1c特異的なもので、DNA 結合などに関わるRUNTドメインを含む部分を重複する、部分タンデム重複 (PTD)変異であった。これは、ML-DSの20%ほどで認められた。RUNX1と、二量体のパートナーであるCBFβの異常による白血病は, CBF-急性骨髄性白血病 (AML) としてカテゴライズされ、小児のAMLの25%、成人の15%を占める。しかし、これらには PTD変異は報告されていない。本研究の目的は、新たに見つかったRUNX1変異体の白血病発症に関わる機能を明らかにすることである。具体的には、(1) RUNX1-PTDによって発現が変動する遺伝子群を明らかにすることや、(2) RUNX1-PTD のゲノム上の認識領域を決定し、野生型や既報の変異体と比較すること。そして、(3) RUNX1-PTD ノックインマウスの解析をすることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RUNX1の変異がどのようなメカニズムで白血病を引き起こすのか?という疑問を解くために、様々なマウスモデルが作成されてきた。しかし、いずれのマウスも そのままでは白血病を発症せず、変異原性化学物質の投与や追加の変異遺伝子導入などが必要であった。我々は、RUNX1-PTDのノックインマウスを作成したところ、高率にそして早期に追加的な処置なしに白血病の発症が見られた。このことは大きな発見であった。しかし、白血病細胞を詳しく調べていく中で、ML-DSにみられる白血病細胞の表現型を反映させるには、変異GATA1の発現が重要な機能を果たす可能性が示唆された。そこで我々は、RUNX1-PTDノックインマウスと変異GATA1を発現するマウスを掛け合わせることにした。本年度は研究の根幹に関わるこの掛け合わせマウスの作成を試みたことから、当初予定していた in vitro の研究成果についてはやや進展が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、新たに作成した変異GATA1 とRUNX1-PTDの掛け合わせマウスの造血細胞について検索を進めている。今後も、このマウスを材料に付加的な遺伝子変異の検索や、異常細胞の性質を検索する予定である。一方で、昨年度予定してた in vitro の研究、 (1) RUNX1-PTDによって発現が変動する遺伝子群を明らかにすることや、(2) RUNX1-PTD のゲノム上の認識領域を決定し、野生型や既報の変異体と比較することも積極的に進める。本研究では当初の予定の研究と、さらに新たなマウスモデルをについても検索を進めることにより、本研究の課題に対してより重要な知見が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、年度前半は新型コロナの影響もあって、PCR関連の試薬や消耗器具の入手に時間がかかり、研究のスピードがやや遅くなった。ただ、研究自体は進めることができ、昨年度の後半に新たな知見が多く得られた。そこで、年度内に研究材料の収集などに多くの時間を割いて、年度をまたいでも解析が滞らないよう対応するために、わずかに余裕を持って残すようにした。研究は順調に進んでおり、昨年度の残は早期に償却予定である。
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