研究実績の概要 |
自閉症は、コミュニケーション障害・社会性の障害・常同行動といった中核症状のほかに、感覚過敏など感覚処理の問題がしばしば合併するが、感覚障害の病態解明はほとんどなされていない。本研究では、自閉症モデルラットを用いて嗅覚神経系の異常と嗅覚刺激に対する細胞応答を明らかにすることで、ヒト自閉症における嗅覚過敏の病態解明と自閉症児のQOL向上を目指す。本年度は、自閉症モデルラットについて、(1)昨年度とは異なる嗅覚刺激物質を用いて嗅覚神経系の形態学的解析を行った。さらに、(2)味覚と嗅覚の関連を明らかにするため味覚中継核である孤束核に着目した解析も行った。 妊娠9,10日目のWistarラットにサリドマイドを経口投与し、コントロールでは溶媒を投与した。いずれも、生まれた仔を自閉症モデルラットとして実験に用いた。生後50日目に嗅覚刺激をラットに提示した直後に灌流固定を行って脳を摘出した。嗅覚刺激物質としてシトラールおよびオイゲノールを用いた。免疫組織化学は神経活動マーカーであるc-fos、抑制性神経マーカーであるパルブアルブミン(PV)、カルビンジン(CB)、孤束核の可視化にはノルアドレナリンのマーカーであるDBHを用いた。その結果、(1)シトラールおよびオイゲノール刺激によるc-fos、PV、CB陽性細胞の分布を嗅内皮質について検討したが差は見出されなかった。また、(2)孤束核におけるDBH陽性細胞の形態や分布についても違いは見出されなかった。 研究機関全体を通じ、自閉症モデルラットの嗅覚神経系について生後10日目では嗅覚に対する感受性が高いことが示されたが、成獣ラットでは4種類の嗅覚刺激に対する嗅覚神経系の異常および味覚中継核である孤束核の関与は見出されなかった。したがって、本モデル動物は時期特異的に嗅覚過敏を呈すると結論づけられた。
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