二分脊椎症・脊髄髄膜瘤は妊娠12週ごろから経腹超音波検査で診断することができる先天奇形である。胎児期に診断できるにも関わらず、出生後にしか治療できないことから、新しい胎児治療戦略が望まれている。一方、ヒト羊水幹細胞(Human amniotic fluid stem cells; hAFSC)は、羊水から得られる胎児由来の間葉系幹細胞の一種で、高い抗炎症作用や神経保護効果があることが知られている。この細胞を脊髄髄膜瘤ラットモデルの羊水腔内に投与することで、胎児の脊髄病変に細胞が遊走し、肝細胞成長因子(Hepatocytes frowth factor; HGF)を分泌を介して脊髄神経が保護されることが報告されている。HGFは、成人の脊髄損傷急性期患者に対し、脊髄腔内投与したときの安全性および有効性を確認する第I/II相臨床試験が実施されている生体内物質である。 本研究では、このHGFが胎児の脊髄損傷ともいえる二分脊椎症・脊髄髄膜瘤に対して、治療効果を有するかを検討した。当初、脊髄髄膜瘤の病変部をメスで摘出し、成長因子や炎症性サイトカインとその受容体などの発現を定量していたが、有意な差は認められなかった。しかし、病変部よりもやや頭側から切開を加えて脊髄を引き抜くように摘出する方法を確立したところ、腫瘍崩壊因子(tumor necrosis factor; TNF)-αの発現に有意差を認めた。従来法では、脊髄を覆う膜状構造物や、周辺組織が摘出の際にコンタミネーションし、脊髄のみの評価が十分にできていなかった可能性が考えられた。 結論として、新規の摘出主義の確立により、脊髄髄膜瘤を持つ胎児における治療効果をより厳密に定量することができるようになった。その結果、HGF治療によりTNF-αが有意に減少することが見いだされた。
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