研究課題/領域番号 |
20K08218
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
横山 和明 帝京大学, 薬学部, 教授 (50246021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペルオキシソーム病 / 先天代謝異常症 / 副腎白質ジストロフィー / 脂質メタボローム / リピドミクス / スフィンゴ糖脂質の網羅的解析 / リン脂質の網羅的解析 / 質量イメージング |
研究実績の概要 |
副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy; ALD)はペルオキシソーム病に分類される先天代謝異常疾患である。生体内で炭素数が22を超える極長鎖脂肪酸は、ミトコンドリアでなくペルオキシソームでβ酸化されることにより、過剰量が除去されている。しかし本疾患では極長鎖脂肪酸をペルオキシソーム内に輸送する膜タンパクATP-binding cassette transporter D1 (ABCD1)の変異により、極長鎖脂肪酸が輸送されず分解されないため体内に蓄積する。主たる症状は脳神経系での後天的な炎症性脱髄とそれに伴う神経精神症状と副腎の機能不全である。蓄積した極長鎖脂肪酸およびそれを含有する複合脂質分子と発症の因果関係が指摘されているものの、解明されていない。本研究はALDの臨床サンプルで見出した、特異なスフィンゴ糖脂質分子およびリン脂質分子が、本疾患の後天的な発症を規定する因子なのではないか、という問いを明らかにするものである。前者は独自開発の解析系で見出した新奇スフィンゴ糖脂質で、その構造を質量分析計を用いて明らかにし、質量イメージングにより発現分布を解析する。後者は極長鎖脂肪酸をグリセロール1位に結合するリン脂質である。その合成酵素の候補であるアシル基転移酵素について、本疾患のモデル細胞でゲノム編集法を用いて解析し、明らかにする。さらにこの合成酵素は創薬ターゲットでもあるため、化合物ライブラリーを用いて阻害薬を探索する。さらに新奇スフィンゴ糖脂質および極長鎖脂肪酸含有リン脂質の両脂質分子に対する抗体が、未発症者にはなく発症患者の血液中にあるかを解析する。これによりこれら脂質分子が発症に寄与する分子であるかを明らかにし、発症機構を解明するとともに、発症の診断マーカーとしての展開を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(A)新奇スフィンゴ糖脂質に関する解析:本研究室で開発した液体クロマトグラフィー-三連四重極型質量分析計(LC-MS)を用いたスフィンゴ糖脂質網羅的一斉解析法により、ヒトALDの剖検脳で、マウスの脳には見られない新規シグナル群を検出している。これら分子の構造を決定することがまず必要である。そのために超高精密質量が測定可能なオービトラップ型質量分析計により解析を試みた、しかし対象分子の存在量が非常に微量であることとから通常の方法では検出不可能であった。そこで持続的微量注入を行うことで超微量分析が可能となるTriversa NanoMateにナノフローイオン源を介して接続し、質量分析計でスフィンゴ糖脂質の構造解析の条件を詳細に検討することとした。測定してみると、天然由来サンプルをクロマトグラフィー分画せずに解析することから、イオンサプレッションが大きく、目的分子のシグナルは得られなかった。そこでTriversa NanoMateのフラクションコレクター機能により分画したのちに、ナノフローによる持続的微量注入を行い構造決定をするべく遂行中である。 (B)極長鎖脂肪酸含有リン脂質に関する解析:本研究室でALD で蓄積する極長鎖脂肪酸含有リン脂質の生合成系を明らかにするために、ALDモデル細胞であるABCD1欠損細胞に対して、CRISPR/Cas9ゲノム編集法より各種アシルトランスフェラーゼを欠損させ、細胞のリン脂質分子種をLC-MSで解析した。ABCD1欠損細胞では患者細胞と同様に極長鎖脂肪酸含有リン脂質が蓄積しており、あるアシルトランスフェラーゼを欠損させると、この蓄積が解消することがわかった。遺伝子工学的に発現させたこの酵素について、基質特異性を検討中である。なお極長鎖脂肪酸に関して大腸癌でも解析し、ALDとは異なり遊離の形で増加することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
(A)新奇スフィンゴ糖脂質に関する解析:速やかに構造を決定する。これにより決定する分子量を元に質量イメージングを行い、剖検脳サンプル中での局在を明らかとする。またこれらの分子の患者線維芽細胞や血漿サンプルにおける存在を解析する。さらに本脂質に対する抗体の存在について患者血清を用いて解析する。 (B)極長鎖脂肪酸含有リン脂質に関する解析:酵素の性状をさらに解析し、極長鎖脂肪酸含有リン脂質の合成酵素であるかを明らかとする。これが明らかにされたのち、化合物ライブラリーを用いて、酵素素材材の探索を行い治療薬の可能性を探る。また極長鎖脂肪酸含有リン脂質に対する抗体の存在について患者血清を用いて解析するとともに、質量イメージングを行い、剖検脳サンプル中での局在を明らかとする。さらに大腸癌におけるABCD1発現を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症への対応による出勤制限の影響もあり研究計画に若干の遅れが生じており、その分の使用額が残ることとなった。次年度は計画通りに復帰させる予定である。
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