研究課題
本年度は、ナノ粒子が多種の小児がん細胞に効率よく取り込まれ、抗腫瘍効果を発揮することができるかを検討した。Firefly luciferaseをコードするmRNAを内包させたナノ粒子と、複数の小児・AYA世代がん細胞株(SK-N-SH(神経芽腫)、TG98(神経膠芽腫)・MD-MB231(乳がん))を共培養した。共培養24時間後のルシフェラーゼ活性を発光測定したところ、SK-N-SH、TG98、MD-MB231いずれにおいても、高度のルシフェラーゼ活性が観察された。したがって、ナノ粒子は効率よくがん細胞内に取り込まれ、内包するmRNAの翻訳を誘導することが示された。さらに、自殺遺伝子をコードするmRNAを内包させたナノ粒子と、細胞株を共培養し、24時間後に自殺遺伝子作動薬を投与した。培養開始48時間後に、フローサイトメトリーにて7AAD+ and/or AnnexinV+細胞の比率を測定したところ、43.2%~76.5%の細胞にアポトーシス・細胞死を誘導できることが明らかとなった。これらの結果から、自殺遺伝子内包ナノ粒子は、これらのがん種に対し、自殺遺伝子作動薬存在下において強い抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった。また、一部のがん細胞では高感受性がみられ、自殺遺伝子作動薬非存在下においても、一定の抗腫瘍効果を誘導できることが明らかとなった。この現象は、正常細胞および血液腫瘍細胞においては観察されなかったことから、がん種による感受性の違いによるものが示唆された。さらに、この自殺遺伝子内包ナノ粒子の、in vivoでの抗腫瘍効果を観察するため、免疫不全マウスを用いたゼノグラフとモデルの作製に着手した。今後はこのゼノグラフとモデルを用いて、さらに詳細に抗腫瘍効果を評価していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
初年度ではあるが、これまでの検討により、in vitroにおいて、ナノ粒子のがん細胞に対する高効率のmRNA導入を評価できた。また、治療遺伝子を搭載したナノ粒子は、in vitroにおいてすぐれた抗腫瘍効果をもたらすことを明らかにすることができたため。
実臨床への応用のためには、担癌マウスモデルにおける薬効を示す必要がある。このため、次年度以降で担癌マウスモデルにおける薬効試験を行い、生体内での治療遺伝子搭載ナノ粒子を用いた治療法の有効性を示していく。また現在の治療遺伝子は、スイッチ薬の併用により抗腫瘍効果がもたらされるが、スイッチ薬なしでも抗腫瘍効果を誘導でき、かつ安全な治療遺伝子の開発にも取り組む。
効率良く研究が進み、必要な試薬の購入が当初の見積もりよりも少なく実験の遂行が可能であった。一方、次年度以降は免疫不全マウスを用いた実験が主体となり、費用がかさむことから、残額を次年度への繰り越すこととした。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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