研究課題/領域番号 |
20K08232
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
西川 拓朗 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (90535725)
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研究分担者 |
河野 嘉文 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (20260680)
児玉 祐一 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (20535695)
宮原 恵弥子 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任研究員 (20778427)
岡本 康裕 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (30398002)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心毒性 / cyclophosphamide / acrolein / アルデヒド脱水素酵素1 / N-acetyl cysteine |
研究実績の概要 |
抗がん剤として頻用されるcyclophosphamide (CY)による心筋障害の主因が、CY代謝物の1つで細胞毒性の高いacroleinであることを明らかにすることを当研究の目的とする。さらにacroleinの代謝・除去能がCY心筋障害発症の個体差となり、acroleinの代謝・除去を促すことで抗がん剤の抗腫瘍効果を抑えることなく心筋障害の発症を予防することを目指す。 これまでマウスへのCYの投与量、投与回数、心筋障害発症までの観察期間を検討し、CYによる心筋障害誘発モデル作製を試みた。その結果、400 mg/kg/dayのCYを2日間連続投与し、7日間の観察後に電子顕微鏡レベルで、心筋細胞の核膜二重構造の乱れや分離、ミトコンドリアクリステの消失とlamellar bodyの出現、細胞質の空胞化、心筋組織における炎症性細胞(リンパ球)の浸潤、間質でのコラーゲン線維の増生などの変化を認めた。さらに心臓のみならず肺においてもⅡ型肺胞上皮細胞内のsurfactantであるlamellar bodyの増加、ミトコンドリアの損傷を認め、肺胞タンパク症の発症が確認された。 続いてsiRNAを用いたALDH1遺伝子の発現抑制下で、前述と同様のCY投与を行った。ALDH1遺伝子はCY代謝においてacroleinの産生抑制に関与するとされるが、この遺伝子の発現を抑制すると、発現を抑制しない場合に比べCY投与後の体重あたりの心臓重量の増加が有意に認められ、ALDH1がCY心筋障害発症に関与している可能性がin vivoでも示唆された。また現在、acroleinの除去剤であり、還元型グルタチオン(GSH)の前駆体でもあるN-acetyl cysteine (NAC)がCY心筋障害発症を抑制するか確認中である。さらにALDH1遺伝子抑制下、非抑制下でのCY投与による網羅的な遺伝子発現変動解析を行いCY心筋障害発症の機序に迫っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CYの投与量、投与回数、心筋障害発症までの観察期間を検討し、電子顕微鏡を用いた病理組織学的検査からCY心筋傷害の誘導が確認できた。今後このマウスを用いてCY代謝において重要な遺伝子の発現抑制を行い、CY心筋障害発症に大きく関与する系を明らかにすることができるため概ね良好とした。またCY心筋障害モデルが確立できたことにより、続いてCY投与後の網羅的な遺伝子発現変動解析を行うことができ、CY代謝及びacroleinの代謝・除去に関わる経路を明らかにすることができることからも概ね良好とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、これまで得られたCY投与条件を基にsiRNAによるマウスのALDH1遺伝子抑制下、非抑制下でCYの投与を行い、生化学的検査、病理組織学的検査を行うとともに、投与後の心筋組織の各種遺伝子の発現変動をマイクロアレイにて解析する。さらにN-acetyl cysteine (NAC)投与下でも同様に生化学的検査、病理組織学的検査、マイクロアレイ解析を行い、CY投与に関連して動く系路、CYの代謝物の1つであるacroleinを代謝・除去する際に動く経路の特定を行う。さらに還元型グルタチオン(GSH)を枯渇させる薬剤の投与や、GSH合成時の材料となるNACを投与した状態でのCY投与を行うことによりCY心筋障害発症のメカニズムに迫る。さらにNACにCY心筋障害を抑制する効果が見られた場合、抗腫瘍効果を落とすことがないか検証も行い、心筋障害発症の予防法についても研究を進めていく。
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