研究課題/領域番号 |
20K08242
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
栃谷 史郎 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 准教授 (90418591)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 母体腸内細菌 / 垂直伝搬 / 撹乱 / 環境因子 / 母乳 / 神経発達 / 発達障害 / 養育行動 |
研究実績の概要 |
母体腸内細菌叢は重要な周産期母体環境の1つである。研究代表者は妊娠期マウス母体腸内細菌叢の撹乱が、子の出生後の脳発達に影響を与え、子の行動変化(低活動、空間嗜好性)を引き起こすことを明らかにした(Tochitani, 2016:母体腸内細菌叢撹乱モデル)。本研究計画においては、母体腸内細菌叢攪乱が子の脳発達に与える影響やその機構を網羅的に検討し、母体腸内細菌叢が子の精神神経発達において果たす役割を様々な点から明らかにすることを目的に研究を進めている。本年度はまず昨年度から行っている母体腸内細菌攪乱モデルにおける母子の腸内細菌叢解析を行い、両者の腸内細菌叢の時系列的変化を詳細に検討した。解析について試行錯誤を行いながら進め、攪乱された母体細菌叢が、子の腸内細菌叢にどのような影響を与えるか全容が明らかになりつつある。また、以前の研究で母体腸内細菌叢攪乱モデルにおける母乳の質の変化の検討を行い、腸内細菌叢の撹乱が母乳の質の変化を誘導することを示唆する結果を得ている。母乳中の成分で腸内細菌叢の定着に影響を与える2つの化合物に着目し、情報収集を行うとともに、その可能性を解析するための動物実験モデルを導入し、1つについては介入試験を実施し、解析を進めた。現在、そのデータの解析を進めている。母体腸内細菌攪乱モデルの母親の行動実験の結果、行動変容が起こることが明らかであるが、母体におこる代謝解析の結果、行動変化に至るメカニズムについて、脳の代謝変化などを基盤とするメカニズムに関する示唆を得ている。もう一つ、母体腸内細菌攪乱が母乳組成変化を誘導する組織レベルでのメカニズムの解析を適切な動物モデルの採用により進めたいと考えてきたが、その点について試行錯誤したが、現在までのところ有用なモデルの確立に至っていない。この点について、次年度以降に最近得た知見をもとに新たな動物モデル導入を考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度より続けている、母子の糞便サンプルにおける細菌叢の時系列的データの解析により、母体腸内細菌攪乱モデルにおける母子の腸内細菌叢の変遷を明らかにする作業を進めた。方法的に試行錯誤する必要があり、想定以上に時間がかかってしまったが、母体腸内細菌叢が仔の腸内容物に観察される細菌、腸上皮付着細菌の定着や時系列変化に特徴的な影響を与えることが明らかになりつつある。さらに、以前の研究で母体腸内細菌叢攪乱モデルにおける母乳の質の変化の検討を行い、腸内細菌叢の撹乱が母乳の質の変化を誘導することを示唆する結果を得ているが、その母乳中に由来する因子を利用した介入により仔の腸内細菌叢の定着がどの程度正常化するか実験を行い、現在解析を進めている。もう一つ別に母乳中に豊富に含まれる因子に注目し、その因子の子の腸内細菌叢の定着における機能を初めとする周産期母子関係における一連の機能について情報収集を行い、その情報を総説論文にまとめた。また、その因子の機能解析のため、輸送タンパクのノックアウトマウスを導入した。母体腸内細菌攪乱モデルの母親の行動実験の結果、行動変容が起こることが明らかであるが、糞便中代謝物解析、血漿代謝物解析のデータ分析を進めた結果、行動変化に至るメカニズムについて、脳の代謝変化などのレベルについて示唆を得た。本年度も昨年度から引き続く新型コロナウイルス禍の影響に伴う、教育業務の量的質的変化の影響を受けながら、研究を進めざるを得なかった。そのような環境において着実に作業を進めているが、一部についてはデータ解析に想像以上の時間を要し、また適切な動物モデル確立や導入に時間がかかったため、当初の予定ほど進まなかった面は否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
以前の研究で母体腸内細菌叢攪乱モデルにおける母乳の質の変化の検討を行い、腸内細菌叢の撹乱が母乳の質の変化を誘導することを示唆する結果を得ている。これまで母乳組成変化に関する組織レベルでのメカニズムの解析を適切な動物モデルの採用により進めたいと考えてきたが、思うようなモデルの確立に至っていない。今年度は最近新たに得た知見をもとに新たなモデル作成を試みる。適切なモデル作成が、メカニズムの一端を明らかにすることにつながると考え、急ぎ進めたい。現在注目している母乳に含まれる2つの因子の子の腸内細菌叢の定着における影響の解析をさらに進める。また、これまで得たデータをまとめ、補強を行い、母体腸内細菌攪乱が仔の腸内細菌叢にどのような影響を与えるか、また母体腸内細菌叢攪乱がどのよう行動変容に導くかの詳細を示す論文をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も研究計画初年度と同じく新型コロナウイルス禍の影響により、予定していた国内出張、海外出張などの機会がなくなり、その分の支出がなくなったため、大幅に予算が圧縮できた。また、本年度中に購入予定であった物品の納期が海外からの輸入の遅延などにより年度内の納入が難しくなり、その購入が次年度に持ち越されたため、本年度中の支出がさらに圧縮された。これらの理由で、次年度使用額が発生した。今後、研究の進展を受け、これまでの研究成果の一部を論文として出版していきたいと考えているが、近年の出版費用の高騰や円安の状況から論文出版費用が大きくなると予想している。また、本年度購入予定であった物品を次年度早々に購入する必要がある。そこで、これらの支出に次年度使用額を充て、研究を進めていきたいと考えている。
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