研究実績の概要 |
腸内細菌叢は宿主の生理・病理に関与する。研究代表者は非吸収性抗生剤投与による妊娠期マウス腸内細菌の撹乱が、この出生後の脳発達に影響を与え、この行動変化(低活動と過度に壁沿いを好む空間嗜好性)を引き起こすことを明らかにした(Tochitani, 2016:母体腸内細菌叢撹乱モデル)。この結果から、研究代表者は子の発達にとって、母体腸内細菌叢は重要な周産期母体環境の1つであると考えている。ただし、子の精神神経発達において母体腸内細菌叢が果たす役割の詳細な全容は未だ明らかではない。本研究計画においては、母体腸内細菌叢攪乱が子の脳発達に与える影響やその機構を網羅的に検討し、母体腸内細菌叢が子の精神神経発達において果たす役割を様々な点から明らかにすることを目的に研究を進めている。対照群と母体腸内細菌攪乱モデルの間における、母子の腸内細菌叢の時系列的変化に関する詳細な比較解析を行った。最初に対照群母親と母体腸内細菌叢撹乱モデルの母親では腸内細菌叢のプロファイルが大きく異なることが明らかになった。そして、それぞれの仔の腸内細菌叢は母親の腸内細菌叢のプロファイルを良く継承することが示された。ただし、母体腸内細菌叢撹乱モデルの母親で高い占有率を占める細菌属のうちの一部は、仔においてはその増殖が抑制されており、母子間の腸内細菌叢の伝搬には細菌分類依存性があることが明らかになった。これらの結果は、母体腸内細菌叢の撹乱が仔の出生後早期の細菌定着期の細菌叢定着・形成パターンを大きく変容させることを示す。これらの結果は先述の母体腸内細菌叢撹乱モデルの仔において観察された行動変容の原因の少なくとも一部は、出生早期の細菌定着期の細菌叢定着・形成パターンの変化であることを示唆する。本研究計画での成果により周産期母体腸内細菌叢の仔の脳発達における役割の一端を改めて示すことができた。
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