ダウン症新生児の約10%は、未熟な巨核球が一過性に増殖する血液疾患(TAM)を発症する。このうち約20%もの症例が、巨核球性白血病 (ML-DS)へと進展する。本研究の目的は、ML-DS移行の予防と予後の改善を目指し、ML-DS発症の分子機構を明らかにすることである。ML-DSで高頻度に変異が検出される遺伝子の多くが、巨核球系分化に必須の転写因子GATA1と協調して機能する(またはその可能性の高い)因子である(未発表)。そこで本研究は、GATA1を中心とした遺伝子発現制御の破綻が、ML-DS発症の共通したメカニズムであるという仮説のもと、白血病発症の鍵となる遺伝子発現制御の破綻機序を解明することを目的としている。 ML-DSで高頻度に変異が検出される転写因子IRX1は、発現誘導によりGATA1の標的遺伝子の発現増加を招く。IRX1はアミノ酸配列から転写因子と推定されているものの、そのDNA認識配列は未だ不明である。GATA1とIRX1が直接結合して転写制御をしているかどうかについて、 GATA1の標的遺伝子の一つであるGP1BA遺伝子のプロモーターアッセイにより検討したところ、IRX1の存在はGATA1の転写活性に特に影響を与えなかった。IRXは直接GATA1と相互作用して活性化に寄与するのではなく、別の経路から巨核球系分化を誘導することでGATA1の標的遺伝子の活性化を促進している可能性が浮上した。クロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)では、IRX1のゲノム上の結合領域がほとんど検出されなかったため、IRX1は、直接DNAに結合しているのではなく、他のタンパクのco-factorとして転写調節に関与している可能性も考えられた。そこで、co-factorとDNAの相互作用解析に適すると言われるCUT&RUN assayを実施した。
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