STIM1遺伝子変異によるミオパチーは進行性に全身の骨格筋萎縮、筋力低下を来し、時に心筋傷害を合併する常染色体優性遺伝性の神経筋疾患である。STIM1は心筋、骨格筋、中枢神経などに広く存在し、小胞体内のカルシウム濃度を感知し細胞膜上のORAI1 チャネルを介する細胞外から細胞内へのカルシウムの流入を制御することでカルシウム動態の恒常性の維持に重要な働きをしているタンパク質であり、その機能の破綻によるカルシウム動態の異常がミオパチーの原因と考えられているが、その自然歴や病態は不明な点が多く、治療法がまだ確立されていない。 本研究課題では、STIM1遺伝子変異によるミオパチーの心筋・骨格筋傷害のメカニズムについて、患者由来iPS細胞から分化誘導して作成した心筋細胞および骨格 筋細胞を解析し、両者の病態の共通点、相違点について明らかとし、病態に根ざした治療法を開発することを目的としている。患者線維芽細胞からのiPS細胞樹立、CRISPR/Cas9システムを用いた点変異の修復(isogenic controlの作成)、両細胞に対するセーフ ハーバー領域へのカルシウム感受性蛍光色素遺伝子および膜電位感受性蛍光色素遺伝子のノックイン、心筋細胞への分化誘導、遺伝子発現解析(RNA-seq)、ライブセルイメージング等を行った。骨格筋細胞への分化誘導については、当初は心筋細胞と同様の低分子化合物やケモカインの添加によるdirecteddifferentiation法を予定し条件検討を行ったが、表現型解析可能に適した高純度の成熟骨格筋細胞が得られず、Tet-Onシステムを用いたMyoD1強制発現(セーフハーバー領域への遺伝子導入)による分化誘導法に変更したところ効率よく高純度のMHC陽性細胞を作成することが可能となった。
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