研究課題
小児の代表的な固形腫瘍である神経芽腫は、1期2期の予後良好群は、しばしば自然退縮がみられる一方で、全症例の約半数を占める4期症例の生存率は未だ40%程度と非常に難治性である。本研究では、高リスク神経芽腫の分子的背景の解明と、がんゲノム医療における精度の高い神経芽腫リスク分類システムの構築を目指し、令和2年度は、日本小児がん研究グループ(JCCG)神経芽腫委員会(JNBSG)が主導する高リスク神経芽腫を対象とした臨床試験登録例(JN-H-07:45例、JN-H-11:50例)について、以下の解析を行った。まず8x60Kマイクロアレイを用いたゲノムコピー数異常の解析(95例)と遺伝子発現解析(55例)、テロメア維持機構の異常の有無の検索(90例)を行った。テロメア維持機構の異常についてはc-circleアッセイを用いたAlternative Lengthening of Telomeres(ALT)解析、hTERT遺伝子発現解析、テロメアコピー数の解析を組み合わせて評価した。これまでにALT陽性18例、ALT陰性65例を検出した。ALT陽性例は全てMYCN非増幅であり、hTERT低発現が67%、11番染色体長腕欠失は78%に見られた。次に211遺伝子を対象としたがん遺伝子パネル解析データを元に、ALTに相関するATRX遺伝子をはじめとする遺伝子異常の有無を検討した。95例のうちATRX遺伝子異常がある症例は9例(うち3例は遺伝子変異、6例はゲノム欠失)であり、その全てがALT陽性であった。これらは既報の欧米の高リスク症例の結果と相似するものであった。今後解析を進めテロメア維持機構の異常と患者臨床予後との相関を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、神経芽腫の各腫瘍サブセットの特徴を理解し、特に既知のドライバー遺伝子変異が見つかっていない症例の悪性化機構を明らかにし、有効な治療法選択に繋げることを目的としている。当初の計画通り、まずJCCG-JNBSG高リスク神経芽腫臨床試験登録例について、悪性神経芽腫の一因であるテロメア維持機構の破綻を伴っているTERT高発現症例とALT陽性症例(ATRX変異症例の同定含む)のサブグループの仕分けをほぼ完了した。
対象症例群についてALTアッセイを完了させ、ATRXのRNA発現レベル、変異または欠失箇所、ALTの有無、患者臨床予後やその他のゲノムマーカーとの相関を解析し、CIMP(CpG island methylator phenotype)などのエピゲノムマーカーの解析をさらに追加して、症例サブグループを決定する。ATRX異常が見られた症例群について、治療標的の候補となりうる特徴的な遺伝子群をマイクロアレイによる遺伝子発現データを用いて抽出する。
新型コロナウイルス感染症流行のため、令和2年度に参加を予定していた国内外の学会(米国癌学会、国際神経芽腫学会、日本癌学会、日本小児血液・がん学会)がweb開催に変更され、当初計上していた旅費を使用しなかったことから繰越額が生じた。次年度以降、web開催である利点を生かし、複数の国内外の学会への参加・聴講に充てる予定である。
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