研究課題/領域番号 |
20K08271
|
研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
野田 万理子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 分子病態研究部門, 研究員 (50571311)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 抑制性神経細胞 / 興奮性神経細胞 / E/Iバランス / 神経細胞移動 / ASD / てんかん / ID |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム障害(ASD)を含む発達障害の病態の本質は、大脳皮質発生過程の構造・機能異常と考えられる。大脳皮質は神経細胞が規則正しく整列した6層構造をとり、この層形成は神経細胞の誕生時期に依存して遅生まれの神経細胞が早生まれの細胞を追い越して配置するinside-out様式で行われる。神経細胞は、機能面から興奮性と抑制性に大別される。これらは機能が正反対であるのみならず、発生過程での移動様式も大きく異なる。神経ネットワークの中では、興奮性の神経細胞と抑制性の神経細胞がバランスよく働くことが重要であるが、興奮性の神経細胞と抑制性の神経細胞の間のバランスが適切に制御されるしくみは不明な点が多い。申請者らは、連携する臨床グループで見出された多彩な発達障害原因遺伝子候補の病態機能解析を、「興奮性神経細胞」の構造・機能障害に基づいて遂行し、それらの遺伝子異常が大脳皮質構築障害を引き起こす分子機構を解析して大きな成果を挙げている。一方、これらの遺伝子異常のなかには、複数の臨床症例があるにも関わらず興奮性神経細胞において異常表現型が認められない分子も一定数存在する。そのような場合、興奮性神経細胞よりも抑制性神経細胞における機能障害が病態形成の主要な背景となっている可能性がある。したがって本研究では、発達障害の原因となる遺伝子異常が、1)抑制性神経細胞そのものの機能障害を原因として発達障害病態を引き起こす可能性、2)抑制性―興奮性神経細胞間の相互作用により間接的に神経機能を悪化させる可能性、を解析するin vivo/in vitroバッテリーを構築する。そして、解析対象として、発達障害責任遺伝子であるPHACTR1, POGZ, MED13Lに焦点を当てて病態メカニズム解析を遂行する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
抑制性神経細胞への子宮内胎仔脳遺伝子導入は、導入時期を胎生(E)12とすることで高効率かつ選択的な導入が可能となったが、抑制性神経細胞の主要な産生部位である基底核原基(ganglionic eminence (GE))の3部位(caudal GE (CGE), medial GE (MGE), lateral GE (LGE))全てにラベルされたため、特に皮質に向かう抑制性神経細胞(MGE由来)の移動解析が困難となった。 一方、生後21日目の脳を用いて、成熟後の神経細胞のマーカーであるParvalbumin (PV), Somatostatin (SST)の抗体を用いた免疫染色を行い、良好な結果が得られている。 解析予定のPHACTR1, POGZ, MED13Lに関する発現抑制ベクターなどはすでに構築済みである。 In vitroでの抑制性神経細胞解析系の構築に取り組み始めた。
|
今後の研究の推進方策 |
MGE選択的な抑制性神経細胞へのラベルを行うため、遺伝子改変マウスを用いた方法に切り替える予定である。しかし、新型コロナウィルスの流行により、海外との契約状況に多大なる遅延が生じ、希望する遺伝子改変マウスの入手目処が立っていない。別系統のマウス入手を模索するか、希望系統のマウスの入手に関して再契約を試みるなど、複数の手段を模索する。この間にin vitroでの抑制性神経細胞解析系の構築・解析を先に進め、in vivoの解析は、遺伝子改変マウスの入手が叶うまで、胎生期大脳皮質の抑制性神経細胞ライブイメージングで代替する。これにより移動途中の抑制性神経細胞の形態・速度変化の数値化を行い、疾患を模倣した状態と健常状態との比較解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行により、学会などでの発表形式が全てオンラインとなり、旅費としての使用額がゼロとなった。 この残額分は、次年度の遺伝子改変マウスの購入費用に充てる計画である。 これ以外には、ベクター構築に必要な試薬や、初代培養神経細胞関係の試薬・器具、妊娠マウス購入費用、抗体購入などに使用する予定である。
|