研究課題/領域番号 |
20K08272
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
岩朝 徹 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医師 (80712843)
|
研究分担者 |
渡邉 裕介 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (20562333)
中川 修 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (40283593)
浦崎 明宏 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40550083)
黒嵜 健一 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 特任部長 (40561460)
石川 泰輔 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 客員研究員 (60708692) [辞退]
白石 公 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 部長 (80295659)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ACVRL1 / 遺伝性出血性末梢血管拡張症 / BMPシグナル / SMAD |
研究実績の概要 |
遺伝性出血性末梢血管拡張症患者(主に本邦のもの)より検出したACVRL1遺伝子バリアント23種について、バリアントのプラスミドを作成してマウス線維芽細胞株(NIH-3T3細胞、293T細胞)及びヒト血管内細胞株(HYUVEC)に導入・細胞内でのバリアントACVRL1機能の障害の状況を評価した。ACVRL1のウエスタンブロット、免疫細胞染色、BMP9刺激時のリン酸化SMADのウエスタンブロット、ACVRL1下流で発現する転写活性(BMP-responsive element:BRE,Id1等)のルシフェラーゼアッセイを実施した。 多くのバリアントではでBMP9刺激時のリン酸化SMADのウエスタンブロットでの発現低下、ルシフェラーゼアッセイでの転写活性の低下を認めたが、大幅に落ちるものから下げ幅が少ないものまで様々であった。またACVRL1の細胞外ドメイン部分(エクソン3迄の部位)にバリアントを持つものでは、本来細胞膜に位置するACVRL1蛋白が細胞質内にしか認められず、リガンドであるBMP9/10と結合することがおそらく出来無い状況が生じていた。これまでACVRL1蛋白においてはその機能・意義がはっきりしていないGSドメイン付近にバリアントを持つ4種は、今回の細胞実験での検討でははっきりした機能の低下が検出出来無かった。これらGSドメイン付近のバリアントを昨年リリースされ、蛋白の構造や他分子とのカップリングを検討できるWEBベースのプログラムであるAlphaFold2を用いた蛋白立体構造解析も実施したところ、BMPR2との結合に支障を来しうるような構造の変化が認められるものもあった。 このように同じ疾患内でもACVRL1の変異で起きる蛋白機能の障害・変化は一様ではないこと、明らかとなった。ACVRL1蛋白の機能障害の状況によっては、現在根治療法のない本疾患を機能障害を回避するような薬物などを投与することで、発症抑制などに繋げることが出来ると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者から検出したACVRL1バリアントを用いて、予定通りのバリアントのACVRL1機能評価が出来ている。ただ予想に反して一部のバリアントに関して、既報と異なり明らかに患者で臨床症状を生じていると判断される点突然変異のものであっても、今回のWetなアッセイ系では機能障害がはっきりしないものがいくつか認められた。 これらに関して、今後論文化を行い更なる解析に繋げていく見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
現在は日本人患者から検出したバリアントを主に用いて細胞実験で解析していたが、ACVRL1の機能解析を進めていくうちに本分子の細かい構造とドメイン別の機能、他分子(BMPR2、endoglin、SMAD1/4/5、FKBP1A)とのカップリングなどが障害されることが徐々に判明している。これらの結果を基に、新たな患者変異を使用して解析数を増やすと共に、ACVRL1蛋白内で機能しているドメイン別に重要と考えられるアミノ酸変異を過去の海外の患者解析報告を元に作成し、ACVRL1機能全体との関わりについて論文化することを考えている。 またいくつかの興味深いバリアント、或いは機能障害が細胞実験で再現出来無い変異についてはゼブラフィッシュかマウスに導入して観察を行うことを考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
一点は、当初本研究では患者さんの遺伝性末梢血管拡張症の遺伝子変異の検出を行い、それを元に研究を進める予定であったが、本疾患の遺伝子検査が保険収載され、保健医療として可能となったことでそのコストを研究費から支出する必要がなくなったため。 二点目は本研究では細胞実験でいくつかのACVRL1分子の機能異常を検出し、興味深い変異をゼブラフィッシュやマウスに導入してin vivoの実験を行う予定であったが、研究の結果細胞実験の段階で多数の興味深い変異や細胞実験のみでは解析出来無い変異が生じ、動物実験すべきバリアントの選択までに至らず、動物実験に関するコストが生じていないこと。 三点目は新型コロナウイルス流行で学会出張できず、オンライン参加とすることで旅費が圧縮できたことである。 次年度は上記細胞実験の対象バリアントが増えているため、それに必要な試薬購入・維持・人件費などが必要になること、研究成果の論文化に関する経費、学会発表に関する経費が増加するため、使用を見込んでいる。
|