研究課題/領域番号 |
20K08275
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
星 拓男 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10375503)
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研究分担者 |
柳川 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312852)
岡田 浩介 筑波大学, 附属病院, 病院講師 (80757526)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | NASH / p62 / 臓器連関 |
研究実績の概要 |
【目的】本研究は,NASHにおけるp62の脂肪酸代謝に関わる分子機構を,p62-KOマウスと組織細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスという新しい遺伝子改変マウスを用いて臓器連関の視点から探索し,p62のNASH発症と進展に果たす役割を明らかにすることを目的とする. 【方法】p62遺伝子のイントロンに,LoxP配列で挟まれた転写終結シグナルおよびpolyA付加シグナル配列を挿入したノックインマウス(全身でp62が欠失)を作製し,次に,組織特異的にp62を発現させる(レスキューする)ために,p62ノックインマウスと組織特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウス(肝細胞:Albumin-Cre,脂肪細胞:Adipoq-Cre)を交配した.これにより生まれた仔は,Creが発現する組織でのみLoxPで挟まれた転写終結シグナルとpolyA付加シグナルが除去されるため,p62の発現が組織細胞特異的にレスキューされた.これらの全身p62遺伝子欠失マウス,肝細胞特異的p62遺伝子レスキューマウス,脂肪細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスに60%高脂肪食を16週間摂餌させ,NASH病態を比較検討した. 【結果】肝組織および脂肪組織におけるp62の発現(レスキュー)をimmunoblotにて確認した.各組織のp62発現は,野生型マウスと同レベルであった.高脂肪食摂餌により全てのマウスは高度の肥満を呈したが,各群で同程度であった.一方,肝病理組織学によるNASH病態解析では,全身p62遺伝子欠失マウスおよび脂肪細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスでは,高度の脂肪化,炎症,線維化を来して重症NASHを発症したが,肝細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスでは脂肪化,炎症,特に線維化が有意に抑制されており,肝細胞のp62発現がNASH防御に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身p62遺伝子欠失マウス,肝細胞特異的p62遺伝子レスキューマウス,脂肪細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスの繁殖が順調に進行し,60%高脂肪食の16週間摂餌実験も完了した.今後も遺伝子改変動物の供給には問題なく,動物実験を継続する. 細胞実験については,Hepa1-6細胞のノックアウトは終了し,細胞の準備は完了しているが,細胞外フラックスアナライザーは特殊な機器であり,これを用いた解析はやや時間を要する可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
【動物実験】 全身p62遺伝子欠失マウス,肝細胞特異的p62遺伝子レスキューマウス,脂肪細胞特異的p62遺伝子レスキューマウスについて,肝臓,白色(内臓)脂肪,褐色脂肪の各臓器と血清の脂肪酸代謝の変化(中性脂肪量,遊離脂肪酸量,autophagy/lipophagy調節因子と脂肪酸代謝に関わる遺伝子の発現変化)を比較検討する.また,肝臓からの脂肪の抜け易さとlipophagyの関連を明らかにするため,これらの遺伝子改変マウスに8週間高脂肪食を摂餌させ肝臓に中性脂肪を蓄積させたのち,1日3gの通常食(マウスの通常の1日摂取量相当)に制限して4週間飼育し,肝組織の中性脂肪の量的変化と脂肪酸代謝の変化を比較解析する. 【細胞実験】 培養肝細胞(Hepa1-6)を用いる.野生型とp62-KO細胞の定常状態および脂肪酸(palmitic acidおよびoleic acid)負荷時の,p62発現の差による細胞内の脂肪酸および中性脂肪の蓄積量の変化と,lipophagyに関わる因子(LC3など)および脂肪酸代謝に関わる遺伝子(FAS, PPAR alpha, PPAR gammaなど)の発現変化をimmunoblot,qPCRで比較解析する. Agilent Technologies社によって開発された細胞外フラックスアナライザーは,ミトコンドリア好気呼吸を測定することにより細胞レベルの脂肪酸酸化の状態,ミトコンドリア機能を詳細に解析できる.このフラックスアナライザーを用いて,野生型とp62-KO肝細胞のp62発現の差による脂肪酸酸化およびミトコンドリア機能の変化を比較解析する.
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