臨床の膵癌像をよく再現する膵発癌モデルマウス(膵臓特異的Kras変異+TGF-beta II型受容体ノックアウト)において、接着因子VCAM-1の中和抗体が生存期間を劇的に延長させる(対照群60日 v.s. 投与群250日)結果を得ており、VCAM-1の接着相手であるalpha4-integrin(a4ITG)の阻害による膵癌の制御効果を明らかにすることを目的としている。 投書の計画ではa4ITGの全身ヘテロノックアウトマウスと本膵癌マウスを交配する計画であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、計画変更を余儀なくされた。VCAM-1阻害による膵癌制御については、VCAM-1中和抗体により腫瘍組織に浸潤する好中球・マクロファージが減少し血管新生も抑制される微小環境変化が生じており、加えてVCAM-1中和抗体が膵癌関連血栓塞栓症の進展を抑制していることが明らかとなり、これらが生存延長に寄与したものと考えられた。血栓症を発症した膵癌化学療法患者の血中VCAM-1およびANPは、血栓症非発症例に比べ、血栓症発症前から有意に高濃度であり、発症予測のバイオマーカーとしての有用性も示唆された。一方、a4ITG阻害の効果については、ヒト膵癌細胞株の皮下腫瘍モデルに対しa4ITG中和抗体投与を行い、腫瘍重量が抑制される結果を得た。そこで、膵発癌マウスに対するa4ITG中和抗体投与も行ったが、生存延長効果は得られず、血栓症抑制効果も明らかではなかった。膵発癌モデルの膵癌組織においてa4ITGは膵癌細胞には発現がなく、間質に稀に発現を認めるのみであり、主座は白血球と考えられ、主座が膵癌細胞であるVCAM-1との阻害効果の相違が明らかとなった。すなわち、VCAM-1とa4ITGの阻害は、それぞれ対象となる細胞が異なるものと考えられ、両者の同時阻害により膵癌制御効果が増強される可能性がある。
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