研究課題
● 抗ウイルス治療による肝炎ウイルス制御が可能となった今日において、肝癌症例は未だ十分な減少を認めておらず、またウイルス制御後に肝硬変が進展する症例が存在するが、肝炎ウイルス制御下においても、治療前のウイルスゲノム構造がこのような病態を修飾する可能性が疑われてきた。特に肝病態に対するウイルスゲノム変異の関連解析において、個々のHCV分子におけるコアとNS5A変異の直列変異情報の取得が強く望まれていた。しかしながら、宿主中でウイルスはゲノムの混在状態(=quasispecies)で存在するが、従来のショートリードシークエンスでは個々のHCV分子の解析は困難であった。● 近年登場したロングリード可能な一分子シークエンサーNanoporeはリードエラーが高い問題があったが、rolling circle amplification (RCA)法によって、1分子をタンデムに幾度も増幅・解析することにより、エラー率を劇的に低下させ、真の変異を検出することが可能となった。● 本年度は、HCVゲノム全翻訳領域において、RCA法を用い、HCV 1分子をタンデムに繰り返し読み取ることにより、99%以上の正確さでHCV1分子ごとに100分子以上を迅速に決定するシステムを構築した。本解析により、慢性肝炎から肝硬変へと進展した持続感染状態では、コア領域の欠失とNS5Aの変異をHCV一分子上に重複して持つ、“変異型ウイルス”と、これらの変異を持たない”野生型ウイルス”の2種類が存在することを示し、これらのウイルスの存在比と病態との関連を示した。
2: おおむね順調に進展している
● 一分子シークエンサーであるNanoporeをベースとして、ウイルスゲノムについて、RCA法を用い、できるだけ長く正確に、かつ多数の配列を読むことを目標としていた。本年度においてNanoporeをベースとしてRCA法を用いることで、HCV全アミノ酸領域にわたって、正確にかつ多数の一分子配列を読み取ることに成功したため。
● 令和3年度は、確立されたこの方をさらにHCV多数症例において応用し、感染状態・ウイルス排除後における肝の病態変化に対するウイルスゲノムの関与をさらに明らかとしてゆく。● またHBVにも着目し、HBV-RNAとHBV-DNAにおいても、RCA法・nanoporeシークエンシングを導入し、HBV全ゲノムの一分子シークエンスシステムの確立を目指す。HBV-RNAとHBV-DNAゲノムについて、合わせて経時的にdeep sequencing にて解析することにより、病態形成におけるHBVの意義を明らかとしてゆく。
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