研究課題
大腸癌は肥満や糖尿病に伴う病態によってそのリスクが増大することが知られている。申請者らの研究グループでは、肥満・2型糖尿病を呈するdb/dbマウスと、 APCヘテロ変異を有し家族性大腸腺腫症のモデルとして知られるMin/+マウスを交配し、新規の肥満関連大腸発癌モデルである「db/db-Min/+マウス」を作製した。このマウスの解析によって、肥満・糖尿病に伴う分子異常と大腸発癌に関連する遺伝子異常の相互作用を検証する。本年度は、db/db-Min/+マウスとMin/+マウスの腸管(小腸および大腸粘膜)や肝臓、腎臓等を含めた主要臓器におけるDNAメチル化について、その割合(メチル化率)を解析した。その結果、2群間にメチル化率の有意な差はみられなかった。また、糖尿病治療薬メトホルミン投与の有無でdb/db-Min/+マウスを2群に分け、腸管腫瘍の発生とともに大腸粘膜におけるDNAメチル化について検討した。体重変化および解剖時の臓器重量は、2群間で有意な差はみられなかった。腸管における発生腫瘍数は、メトホルミン投与群において有意に少ない結果であり、メトホルミンが肥満および遺伝子変異に関連した消化管発がんに対して抑制的な作用を有することが示唆された。消化管粘膜および腫瘍におけるIGF/IGF-1受容体経路の過剰活性化が既報で示されており、IGF-1受容体タンパク質の発現について免疫組織染色にて解析した。その結果、消化管粘膜あるいは腫瘍の一部においてその発現が確認されたが、本研究で比較した2群間では有意な差は確認されなかった。また、解剖時の血糖値および血清インスリン値にも有意差はみられなかった。上記結果は,本モデルにおけるメトホルミンの腫瘍発生抑制効果が,糖尿病の病態改善を介したものではないことを示唆していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウス臓器におけるDNAメチル化評価を行うことができた。また、腸管腫瘍の発生を抑制しうる薬剤とその機序について解析が進んだ。
腸管粘膜やその他腫瘍臓器におけるDNAメチル化率に有意差はみられなかったが、今後はメチル化の網羅的解析をすすめていく。また、糖尿病治療薬メトホルミンで腫瘍発生に差異がみられたことから、メトホルミン投与の有無でDNAメチル化に違いがあるかどうかについても検討していく。
次年度は実験動物の数が増え、維持管理費の増加が予想されるため、繰越が生じた。また成果発表のため、国内学会に参加するための旅費も必要となる。
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