研究課題/領域番号 |
20K08285
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石黒 洋 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 教授 (90303651)
|
研究分担者 |
小川 真一郎 信州大学, 医学部, 特任教授 (30419353)
相馬 義郎 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (60268183)
山本 明子 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 教授 (60402385)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 嚢胞性線維症 / iPS細胞 / 膵管 |
研究実績の概要 |
嚢胞性線維症は肺、膵臓、肝臓、腸管などに病変が現れる難治性の劣性遺伝性疾患である。ヨーロッパ人種の最も多い遺伝病であるため、欧米では研究が進み分子治療が始まっている。日本を含む東アジアでは稀であるが、研究代表者らの調査をきっかけにして患者レジストリが始まり、日本国内で約60名の患者を把握している。原因となるCFTR遺伝子バリアントのタイプが人種によって全く異なること、日本人の嚢胞性線維症はヨーロッパ人種に比べて重症が多いことが分かってきた。本研究は、嚢胞性線維症の膵臓および胆道病変の根本的な治療を実現するために、個々の患者から樹立したiPS細胞を用いた研究を実施することを目的としている。R2年度は、対象となる嚢胞性線維症患者の臨床データの解析、CFTR遺伝子解析、CFTRバリアントの分子病態の解析を行った。 1.嚢胞性線維症では、気道の慢性感染症と咳そうによる消耗が加わって栄養状態が悪化することが多い。18歳未満の登録患者30名のBMIを調べると70%以上が標準的な体格に達していなかった。栄養状態が良好になると肺機能が改善することが知られており、消化酵素製剤を充分に補充して栄養状態を改善していく必要がある。 2.国内の嚢胞性線維症患者で最も頻度の高いdele16-17bバリアントのホモ接合体患者について調べた。1例は新生児期に肝不全で死亡した。兄弟例について重症度に違いがあり、他の遺伝的素因の影響が推定される。 3.東アジア/日本タイプのCFTR遺伝子バリアントの性質を調べたところ、11種類のバリアントがクラスⅡ(蛋白は作られるが細胞膜まで移動しない)であった。欧米で臨床応用されている分子治療薬(CFTR蛋白の成熟化を助けるLumacaftor)を投与したところ、そのうち5種類のバリアントが細胞膜に移行した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、4つの研究室、嚢胞性線維症レジストリ事務局、患者と家族の会、主治医グループの緊密な連携により成り立つ。R2年度はCOVID-19の蔓延の影響で、患者さんとご家族との面談、血液サンプルの採取などの活動が進まなかった。その代わりとして、対象となる嚢胞性線維症患者の臨床データの解析、CFTR遺伝子解析、CFTRバリアントの分子病態の解析を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
CFTR遺伝子は多様性に富み2,000種類を超えるバリアントがあり、人種や民族による違いが大きい。研究代表者の研究室はこれまでに約20種類の東アジア/日本タイプのCFTRバリアントを検出している。その中で国内の嚢胞性線維症患者で最も頻度の高いdele16-17bバリアントのホモ接合体患者のiPS細胞株を樹立、胆管および膵導管細胞へ誘導する計画である。研究分担者の強制発現系を用いた解析により、dele16-17bバリアントからはΔ(G970-T1122)-CFTR蛋白が生成されるが、膜貫通ドメイン9~11を欠損した蛋白は、核の周囲に留まり細胞膜へ移行しないことが分かっている。dele16-17bバリアントはCFTR機能がほぼ失われると推定される重度のバリアントである。しかし、dele16-17bバリアントのホモ接合体患者においても重症度や各臓器(肺、膵、肝)の表現型は様々であり、Modifier geneの関与が推定される。この解析により、生体内でのdele16-17b→Δ(G970-T1122)-CFTR蛋白の動態、分子治療の可能性、Modifier geneの解明に繋がる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19蔓延の影響によりサンプルの輸送ができなかったため、一部の実験を次年度に先送りした。
|