研究課題/領域番号 |
20K08286
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小沼 邦重 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (90597890)
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研究分担者 |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
近藤 純平 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (80624593)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん細胞集団の転移 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
集団としてのがん細胞が転移に寄与することが報告されているが、そのメカニズムは未だ不明な点が多い。前年度は、apical-outの極性状態が転移過程に及ぼす影響を検討した。大腸がん細胞塊培養物Cancer Tissue-Originated Spheroidを利用して、がん細胞集団の特性解析を行い、apical-outの極性状態では、apical面の外側に放出された活性酸素が血管内皮に作用し、血管内から血管外への浸潤を促進することを示した。本年度では、apical-in からapical-outへの極性転換を阻害する化合物と極性を制御する分子の同定を目標に研究を行った。極性転換を簡便に評価するために、Thy-1のGPI結合シグナルシークエンスでC末端を修飾したGFP発現ベクターからPiggyBacベクターを作製し、大腸癌細胞集団に導入し、apical面の局在を観察する指標とした。細胞外マトリックス存在下から非存在下に培養条件を変えると、がん細胞集団はapical-inからapical-outへ極性転換する。このような極性転換を阻害する薬剤を探索した結果、CFTR inhibitor-172(以下172)を見つけ出した。172は、溶媒対照であるDMSO添加群と比較して、7.5, 15, 30μMの濃度でapical-inからapical-outへの極性転換を阻害した。一方で、CFTR activatorであるForskolinは極性転換を阻害しなかった。また、172を上記の濃度で処理しても、apical-outからapical-inへの極性転換や、浮遊培養におけるapical-outの極性状態には影響せず、細胞傷害性もなかった。以上の結果から、172はapical-inからapical-outへの極性転換のみを阻害する転移を抑制する候補化合物である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞集団のapical-inからapical-outへ極性転換を阻害する化合物として、CFTR inhibitor-172を見つけ出した。しかし、極性を制御する化合物の同定に時間を要したため、当初の計画にある、極性転換を制御する分子あるいは経路の解析までには至らなかった。CFTRは全身の上皮細胞に発現するクロールイオンチャンネルであり、その発現異常は嚢胞性線維症と関連することが知られている。CFTRの制御する下流の分子としてc-SRCやERKがあり、増殖や酸化ストレス、アポトーシスなどに関与すると予想される。今後、特定の分子に対してshRNAを用いた発現抑制実験あるいは発現ベクターを用いた強制発現実験を行い、極性転換を制御するメカニズムを検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに確立している肝転移モデルと、同所性移植モデルを用いて、CFTR inhibitor-172を含む複数のヒット化合物を用いた治療により転移の進展が抑制できるかを検証する。肝転移モデルでは浮遊培養したCTOSを門脈から注入して4週間後に肝転移巣を形成させ、コロニー形成頻度や大きさを比較し、同所移植モデルでは、CTOSを直腸粘膜に移植し、そこから間質および血管内浸潤を検討する。極性転換を制御する候補分子に対する阻害剤で前処理したCTOSをこれら移植モデルに適用し、転移への影響について検討する。さらに、極性に関与する既知の分子や化合物から類推される新規候補遺伝子に対するsiRNAを作成し、それらの遺伝子をCTOSでknock downして、転移への影響について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り計画が遂行できたため。次年度の「移植モデルを用いた生体における実効性の検証」に予算を使用する予定である。
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