研究課題
非ウイルス性の肝細胞癌(以下、肝癌)が増加傾向である。その原因の一つに非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の増加があるが、原因が明らかでないものも多い。糖尿病や肥満の存在の他、ヒトゲノム研究により明らかとなった宿主の遺伝的要因などにより、リスク群の囲い込みが図られているものの、まだ十分とは言えないのが現状である。一方で、腸内細菌叢(腸内フローラ)が糖尿病や肥満、さらには肝疾患を含めた種々の疾患に関わることが明らかとなってきた。腸内細菌叢の構成は、食習慣に大きな影響を受け、加齢により変化し、遺伝的要因との関連も示唆されている。肝疾患において、遺伝的要因と腸内細菌叢がどのように関わり合って、どの程度、病態形成に関連しているのかは、全く知られていない。ヒトゲノムとその転写産物であるトランスクリプト、および共生微生物である腸内細菌のゲノム(メタゲノム)、これらの情報を機械学習の手法により統合的に解釈・集約し、非ウイルス性肝発癌リスク因子の抽出を目指す。最終目標は、非ウイルス性肝発癌高リスク群を効率的に囲い込み得るような、精度の高いリスク評価法の開発である。初年度は、今後の解析に供するための糞便サンプル収集と、それらに付随する臨床情報の収集とデータクリーニングを行った。具体的には、非ウイルス性肝発癌例および非発癌例、比較する対象としてのウイルス性肝疾患症例および健常人についてである。二年度目には収集したサンプル数が1000に到達し、順次、DNA抽出、16S rRNA解析を行っている。得られたデータセットを用いて、機械学習プラットフォームの構築を行い、PCAやクラスタリング、多変量解析等の試験運用を開始した。また、当該症例についてヒトゲノム情報(GWASデータ)の有無を確認し、有るものに関しては統合解析の準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
引き続き、非ウイルス性肝発癌症例および比較対照群について、糞便サンプルの収集と付随する臨床情報の収集、データクリーニングを行っており、収集した糞便サンプルについては、順次、酵素法によりDNA抽出を行っている。16S rRNA解析も順次進めている。得られたデータセットを用いて、機械学習プラットフォームの構築を行い、PCAやクラスタリング、多変量解析等の試験運用を開始した。また、統合解析に供するために、ヒトゲノムに存在する一塩基多型(SNP)の網羅的データについても既存のもので利用可能な情報を選定・抽出している。現在のところ、予定通りの進捗状況である。
引き続き、糞便サンプルの収集および付随する臨床情報の収集を継続して、DNA抽出を進める。順次、16S rRNA解析を行う。目的領域をPCR増幅後に次世代シークエンサーで塩基配列を解読し、バイオインフォマティクスを活用して、腸内細菌叢の組成を明らかにする。種々の臨床情報を踏まえながら、肝発癌との関連について解析を行う。また、ヒトゲノム情報あるいはトランスクリプトの情報を組み込んだ上で、機械学習による統合解析を行う。これにより、高精度の肝発癌予測や未知のリスク因子抽出を目指す。
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BMC Gastroenterol.
巻: 21(1) ページ: 306
10.1186/s12876-021-01884-5