研究課題/領域番号 |
20K08299
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
|
研究分担者 |
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 総括研究主幹 (60371085)
尾崎 倫孝 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80256510)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | プログラム細胞死 / 肝虚血再灌流傷害 / 活性酸素 / 細胞内カルシウムイオン |
研究実績の概要 |
本研究は、虚血および再灌流時に肝細胞内で引き起こされる『活性酸素』, 『細胞内カルシウムイオン』, そして『(ネクローシス様)プログラム細胞死』に着目し、これまでの概念では説明しきれない肝傷害誘導機序の存在を明らかにすることを目的とする。この研究は、特に肝傷害の維持・拡大におおきく関わる、再灌流後中~後期の持続的な肝傷害をターゲットとし、新たな肝虚血再灌流傷害機構の解明に挑み、新たな標的分子・機序を導き出す意義を持つ。 本研究では、「ネクロプトーシス」、「パータナトス」など種々のネクローシス様プログラム細胞死等と、低酸素/再酸素化時に肝細胞内で引き起こされる様々なイベント、環境変化(①酸化ストレス、②細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度―CaMKⅡ)の機序を段階的に進める計画である。 本年度は、肝細胞の低酸素/再酸素化で引き起こされるプログラム細胞死それぞれについて、その誘導機序と分子機序解析の研究を進めた。特に、低酸素/再酸素化で引き起こされる急性期の細胞死と、「酸化ストレス」、「細胞内カルシウムイオン濃度―CaMKⅡ」それぞれのイベントに関わる、特異的な細胞死が然るべきタイミングで引き起こされていることがわかった。また、それぞれの分子メカニズムの解析を進め、肝細胞でのネクローシス様プログラム細胞死メカニズムの概要を把握することに努めた。 また、これらの細胞死が実際の生体肝で引き起こされているのかを確認するため、マウス肝虚血/再灌流モデルをもちいたin vivoによる検討を進め、肝でのプログラム細胞死機能の重要性についての検討に取り掛かることができた。 以上のように、本年度の研究は肝細胞および生体肝で引き起こされるネクローシス様プログラム細胞死の機能性とその誘導機序について、基盤的な検討を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ネクロプトーシス、パータナトス、それぞれの低酸素/再酸素化誘導細胞死について、① 酸化ストレスによる制御、②細胞内カルシウムイオン―CaMKⅡによる制御、③両細胞死経路の相互作用と相違、そして④肝虚/再灌流モデルにおける各細胞死、以上の項目について段階的に検討を進める計画のもと研究に取り組んでいる。 本年度は、まず細胞レベルでの検討を進めることができた。低酸素/再酸素化後のパータナトスとネクロプトーシスの両者の機能性と誘導機序を中心に解析を行った。 パータナトスについては、肝の酸化ストレスを介した誘導機序とその意義について結果を得ることができた。特に、アポトーシスとの比較によって、それぞれの細胞死が異なった分子機序で、個々の役割を担っていることを明らかにした。この結果は、マウス肝の虚血/再灌流実験でも証明することができた。以上、得られたデータの取りまとめまでを行うことができた。 ネクロプトーシスに関しては、まず、細胞内カルシウムイオン―CaMKⅡとの関係の発現誘導の可能性について解析を進め、確かにこの経路が働いていることを確認した。さらにこの経路の誘導機序解析を肝細胞レベルで進める段階に入ったが、まだ十分な検討結果が得られていないことから、計画を一部変更して、次年度も継続してこの検討を進める。一方で、本年度はマウス肝虚血/再灌流肝傷害モデルにおける肝傷害について、このネクロプトーシスの解析実験に取り掛かることもできた。 以上の進捗状況から、一部の段階では延長して検討を行う一方、計画より早く生体肝での実験へ進むことができたことから、本研究課題の進捗はおおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、肝虚血再灌流における「ネクロプトーシス」、「パータナトス」などのネクローシス様プログラム細胞死に焦点を当て、それぞれが関わる誘導機序、分子メカニズムを解析し、プログラム細胞死の新しい機序を明らかにすることを目指している。この研究課題を解明するために、本研究は、それぞれの低酸素/再酸素化誘導プログラム細胞死について、① 酸化ストレスによる制御、②細胞内カルシウムイオン―CaMKⅡによる制御、③両細胞死経路の相互作用と相違、そして④肝虚/再灌流モデルにおける各細胞死の解析、以上の項目について段階的に進める計画である。 今後は、まず細胞レベルでの検討を継続して研究を進める。特に、前年度より取り掛かっている細胞内カルシウムイオン―CaMKⅡを介したネクロプトーシスの分子機序の解析を優先的に進める(①および②)。その後、引き続いて低酸素/再酸素化肝細胞時のネクロプトーシスと他のプログラム細胞死との相互関係と相違の解析へと進める(③)。この解析については、後述の分子機能プローブと細胞死阻害剤、酸化ストレス/CaMKⅡ阻害剤やsiRNA等を組み合わせた解析法を用いる計画である。 同段階の検討として、プログラム細胞死をモニタリング可能な分子機能プローブの検討も予定している。標的プログラム細胞死の分子メカニズムの詳細な解析に有用であると想定しているため、次年度よりプローブのデザイン・作製を行う計画である。作製後、細胞レベルで機能性を確認し、各ステップの実験に応用し研究を進める。 ④肝虚血/再灌流モデルにおける肝細胞死解析は小動物レベルでの検討となり、既にネクロプトーシスの検討に取り掛かっているが、次年度も継続してこの検討を進める。次年度以降で③のツールがin vivoレベルでも使えることが分かれば、これらを応用して、生体肝(小動物)での各細胞死経路の機構と意義の解明を試みる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題遂行には、肝細胞の低酸素/再酸素化細胞傷害に関わる新しいネクローシス様のプログラム細胞死について詳細な検討を行う必要がある。そのために、今回焦点を当てている細胞死「ネクロプトーシス」「パータナトス」について、段階的な検討方法で研究を進めている。 本年度は、パータナトスの解析から検討進め、データの取りまとめまでを行った。引き続いて、細胞内カルシウムイオン―CaMKⅡを介したネクロプトーシスの検討を開始した。この細胞死の解析には、RIP1/3-MLKLを介するコンベンショナルなネクロプトーシスとの識別をしたうえでの解析が必要であったため、そのポイントの解析方法の調査に時間を費やすことになった。このため、当初の研究計画を変更して、次年度も継続してこの段階の解析を進めることとなった。それに伴い、本助成金の次年度使用額も生じることになった。 本年度の次年度使用額とそれ以降(次年度)の使用額は合算して、継続した細胞レベルでのネクロプトーシスの解析と、本来の次年度研究計画の実施段階である、種々の細胞死経路の相互作用と相違の解析に使用する予定である。また、本年度から開始した動物実験での検討についでも、同様に合算した研究費にて研究を進める。
|