研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)感染に起因する肝発癌には、ウイルスゲノムがヒトゲノムに組み込まれる(integration)ことが関与していることが示唆されている。本研究では、HBVのTERT領域へのintegrationによる肝発癌への関与とそのメカニズムを明らかにすることを目的した。ゲノム編集技術を用い、ヒトiPS細胞のTERT promoter領域にHBVゲノムの一部(HBx遺伝子を含む領域)を挿入したHBV integrationモデルiPS細胞を樹立した。これらのintegrationモデル細胞ではiPSマーカーとTERTの発現に変化はなかった一方、HBxの発現を認めた。樹立したintegrationモデルiPS細胞を肝細胞系譜細胞へと分化誘導した細胞(iPS-hep細胞)では、HBxの発現は未分化iPSに比べ発現亢進を認めた。また、TERTの発現は非ゲノム編集細胞(wt)と比し高い発現を示した。このiPS-hep細胞についてRNA sequenceによる、網羅的な遺伝子発現解析を行った。TERTの他、肝癌にかかわる既知の遺伝子および他癌との関連が報告されている複数の遺伝子がDEGsとして抽出された。また、TERTとHBV両方の配列を含む融合転写産物が少量ながら検出された。一方、TERT promoter領域にHBV integrationを認める肝癌組織検体のRNA sequence解析を行ったところ、非癌組織と比し、細胞周期や細胞分裂に関わる経路が亢進し、また細胞接着やアポトーシスに関連する遺伝子の変動が示唆された。また、肝癌検体においてもTERTとHBV両方の配列を含む融合転写産物が発現していることが示された。これらの遺伝子発現変動や融合転写産物が悪性形質獲得に関与している可能性があると考えられた。
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