有腹水肝硬変患者の腹水中の細菌をTm mapping法を用いて解析し、従来の特発性細菌性腹膜炎(SBP)の診断法である、腹水中白血球(好中球)数、腹水細菌培養の陽性率と比較検証を行った。また腹水中のサイトカインをELISA法を用いて測定し、腹水中のマクロファージ、好中球についてFACS解析を行い、SBPの病態につき検討を行った。肝硬変患者29例につき解析を行った。腹水中WBCのSBPの診断における有用性が確認された。2名でのみ培養陽性であったが、Tm mapping法では13名で細菌反応が検出され、培養に比し優れた感度が示された。腹水中のIL-6 2137pg/mL、IL-1b 12.9pg/mL、IL-8 2.2pg/mLであり、腹水有核細胞中のM1マクロファージ0.15%、M2マクロファージ0.05%でM1/M2比1.91であった。腹水IL-6、IL-1bは腹水中WBC、LDHと強い相関があり、またIL-6はM1/M2と正の相関を示す傾向にあった。腹水中のサイトカインと腹水の再燃再発には関連がなかったが、腹水IL-1bは生存期間と関連がみられた。 IL-6は肝病態の進展、予後に大きく影響を及ぼすとされているが、今回の検討からSBPと診断される以前からIL-6が腹水中で増加しており、肝硬変患者の病態形成に影響を与えていることが示唆された。IL-6の産生源としては腹水中のM1マクロファージが考えられた。 Tm mapping法は従来の培養法に比し感度が良好であり、短時間で菌体の同定・定量が可能なことからSBPの診断、治療成績の向上に寄与することが期待される。また腹水中の菌体成分は腹腔内の炎症を惹起し、肝硬変合併症の発症に寄与する可能性が示された。
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