研究課題
肝癌で活性化が認められるSTAT3はin vitroにおいて肝癌細胞の増殖を促進することが知られているが、in vivoにおける役割は明らかでない。そこで、肝癌におけるSTAT3活性化の機序およびSTAT3が肝発癌・増大進展に及ぼす影響について肝癌微小環境に着目して検討した。肝発癌モデルとして肝細胞特異的Kras変異マウスを用いた。同モデルの肝細胞において、STAT3およびconnective tissue growth factor (CTGF) を欠損させた。KrasG12Dマウスでは組織学的に肝細胞癌に類似した肝癌が形成され、癌部ではp-STATとその標的遺伝子、IL-6ファミリー分子(IL-6, IL-11, LIF, OSM, CLCF1)の発現上昇を認めた。また癌部ではCTGFが高発現しており、各種IL-6ファミリー分子、STAT3標的遺伝子の発現と正の相関を示した。癌組織のシングルセルRNAシークエンスにおいて、IL-6ファミリー分子は主に肝星細胞、マクロファージ、類洞内皮細胞、T細胞などの間質細胞が発現していた。STAT3を肝細胞特異的に欠損したKrasG12Dマウスでは癌部においてp-STATおよびCTGFの発現が低下し、腫瘍の増大進展が抑制された。IL-6ファミリー分子の刺激により肝癌細胞のp-STAT、CTGFの発現が上昇し、細胞増殖が亢進した。またCTGFの刺激により各種間質細胞においてIL-6ファミリー分子の発現が上昇した。KrasG12DマウスにおいてCTGFを肝細胞特異的に欠損させると、癌部においてIL-6ファミリー分子、p-STAT3の発現が低下し、腫瘍の増大進展が抑制された。以上より肝癌においてSTAT3はCTGFとIL-6ファミリー分子を介した腫瘍間質反応により活性化し、肝癌の増大進展を促進する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究結果によって、肝癌微小環境を介した肝癌STAT3活性化機序及びその肝癌増殖に与える意義について明らかとなった。本研究課題はおおむね順調に進展している。
上記の通り順調に進行しており、計画書に準じて研究を進めていく。特に次年度以降に臨床検体を積極的に活用し、ヒトにおいても同様に機序が成立しているのかを解析し、研究を進める。
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Cell Mol Gastroenterol Hepatol.
巻: 07 ページ: 008.
10.1016/j.jcmgh.2021.07.008.