研究課題
消化器癌組織の中には様々な種類の免疫細胞が入り込んで、抗腫瘍免疫を担っています。これらの一部は三次リンパ組織様構造(TLS)と呼ばれる、免疫細胞が集まった構造体を形成します。腫瘍組織に侵入する免疫細胞は腫瘍に対してどのような機能を果たしているのか、またこれら免疫細胞の種類はどのようなものか、TLSはどのような免疫細胞により構成されているかなどの詳細は未だ明らかではありません。本研究では、腫瘍組織に侵入している一つ一つの免疫細胞の種類や特徴を測定して解析しました。まず、手術あるいは生検により得られた胃癌組織のホルマリン固定標本(約50症例)を用いて、顕微鏡観察により癌細胞の存在部位を確認の後、フリューダイム社のハイペリオンイメージングシステムにより、免疫細胞の種類や機能に関係する30種近くの分子がそれぞれの細胞上どのくらい発現しているかを測定しました。一つの免疫細胞上に発現する複数の分子の量を知ることで、個々の細胞の詳細な性質を知る事ができます。その結果、特定の分子の発現パターンを示すCD4陽性Tリンパ球集団が多く侵入している胃癌症例では予後良好であることを見いだしました。続いて、現在はこれらの特定のTリンパ球集団が抗腫瘍能とどのような分子機序で関わっているかの解析、および食道癌組織に侵入するTリンパ球の解析も実施しています。これらの結果から、消化器癌細胞の制御にどのような特徴を持つ免疫細胞がより有効かが明らかになり、診断法や治療法の開発に有用と考えられます。
2: おおむね順調に進展している
研究対象として50症例近くの進行胃癌の組織検体および全身化学療法前後の末梢血検体を集積した。胃癌組織に浸潤する免疫細胞および三次リンパ組織様構造(TLS)の解析のために、フリューダイム社のハイペリオンイメージングシステムによる最大37色の多重染色を実施し、同一検体のIHCと比較してその妥当性を確認した。順次、胃癌組織浸潤免疫細胞を個別に同定、定量を行い、ほぼ全例の測定を終了した。この過程で、特定の分子の発現パターンを有するリンパ球集団が多い患者においては予後良好の傾向があることが見いだされた。上記の予後に関連するリンパ球サブセットの機能を解明するため、胃癌患者の保存末梢血免疫細胞のフローサイトメトリーによる測定も実施した。さらに進行食道癌組織に浸潤する免疫細胞についても同様の手法で約20例の測定を完了している。以上より、研究の進捗状況は概ね順調と判断した。
消化器癌の組織における浸潤免疫細胞とこれらが形成する三次リンパ組織様構造(TLS)の詳細な解析を行う事で、腫瘍組織における免疫細胞の詳細な種類と、その機能と疾患の予後との関係の解明を目指して研究を進めている。その過程で特定の分子発現パターンを有する新たなリンパ球集団が予後良好に関連することが分かったため、この細胞集団の表現型の詳細な解析、免疫学的機能の解析を行う事により、胃癌における免疫制御の新たな機序を解明することが期待される。この新規リンパ球集団の組織内TLSでの分布についてもHyperionによる測定データに基づいて解析が可能と考える。本年度は集積した胃癌組織検体のHyperion解析を更に進めることに加え、患者末梢血免疫細胞においても当該リンパ球集団が存在するか、これらがどのような免疫学的機能を有するかについて解析を行う。末梢血免疫細胞のより詳細な表現型解析が必要となった場合は、フローサイトメトリーによる多重染色に加えて、Fludigm社Helios(cyTOFシステム)を用いてより多くの分子の発現を同時に検出する予定である。また食道癌についても同様の手法で浸潤免疫細胞と末梢血免疫細胞の解析を進め、特に免疫チェックポイント阻害治療による疲弊Tリンパ球の活性化の詳細な機序の解明を目指している。
当初の研究計画に沿い、消化器癌患者検体における腫瘍組織浸潤免疫細胞の測定は、胃癌症例はほぼ全例で終了した。これらの解析を進めたところ、特定の発現型を有する免疫細胞集団、特に疲弊Tリンパ球の活性化に関わる分子発現する細胞、をより詳細に測定する必要性が生じたこと、および胃癌検体のみならず食道癌検体についても同様の手法を用いて測定すること、など予定の変更が必要となった。そのため研究費を一部翌年度分として請求し、主に、今後に集積される臨床検体の測定に用いる新たな試薬の購入に当てることとした。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Cancer Letters
巻: 532 ページ: 215597~215597
10.1016/j.canlet.2022.215597
Gastric Cancer
巻: 24 ページ: 780~789
10.1007/s10120-021-01196-3