研究課題/領域番号 |
20K08313
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
五十川 正記 国立感染症研究所, 治療薬・ワクチン開発研究センター, 室長 (50723201)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | B型肝炎ウイルス / CD8+T細胞 / 免疫寛容 |
研究実績の概要 |
全世界でおよそ2億5千万人がHBVに持続感染しており、本邦でも150万人が持続感染患者と推定される。これら持続感染患者の多くはB型慢性肝炎を発症し、肝硬変や肝細胞癌へと進行する危険にさらされている。HBV の排除には感染細胞を選択的に破壊することの出来るHBV 特異的 CD8+T 細胞応答が必要である。しかしながら、HBV持続感染患者ではその機能性が顕著に低下しており、いわゆる「免疫寛容」の状態にある。申請者らは、免疫寛容状態にあるHBV特異的T細胞内で特徴的に変動する遺伝子を網羅的に解析した。その結果、これまでに報告されているチェックポイント分子の上昇に加え、IFN誘導遺伝子群(ISGs: interferon stimulated genes)の減少が顕著に認められた。本研究の目的は、肝臓内で誘導されるHBV特異的免疫寛容におけるIFN-Iシグナル抑制の意義とメカニズムを明らかにし、さらに、IFN-Iシグナル抑制を解除することにより、HBV特異的免疫寛容を克服できるかを検討することである。R2年度は、肝臓でI型IFN応答を誘導するため、人工二本鎖RNAであるpoly I:Cを脂質ナノ粒子 (lipid nano particle:LNP)で覆い、HBVを肝臓内で複製するHBVトランスジェニックマウス (HBV-Tgマウス)に投与した。その結果、非常に強いI型IFN応答に伴い、免疫寛容状態にあるHBV特異的CD8+T細胞の機能性を誘導することに成功した。さらに、このCD8+T細胞応答により、HBVの遺伝子発現を抑制できることを確認した。以上の結果は、肝臓内で強くI型IFN応答を誘導することで、HBV特異的CD8+T細胞応答の免疫寛容を克服できることを示唆している。これら研究結果は、2021年2月にJCI Insight に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
R2年度は当該研究を集中的に行い、計画以上の成果が得られた。さらに、投稿した論文もスムーズに受理された。
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今後の研究の推進方策 |
今回はHBV特異的CD8+T細胞が肝臓で抗原認識した直後にpoly I:C LNPを投与することで、免疫寛容の成立を回避できた。今後は免疫寛容が成立したHBV特異的CD8+T細胞に対しても、肝臓内IFN-Iシグナルの活性化が機能性の誘導に効果的か検討する。具体的には、HBV特異的CD8+T細胞をHBV-Tgマウスに養子移入し、その二週間後にpoly I:C LNPを投与する。これらの実験から、B型慢性肝炎患者により近い状態でも、IFN-Iシグナルの活性化によりHBV特異的CD8+T細胞の免疫寛容が出来るかが明らかとなる。また、IFN-Iシグナルが肝臓内のHBV特異的CD8+T細胞で選択的に減弱するメカニズムについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2年度は高額な試薬の購入がなく、当該研究費による旅費支出も不要であった。また、研究代表者の所属変更に伴い、実験が一時中断していた時期もあった。 (使用計画)研究2年度目となるR3年度は消耗品費が増える見込みである。また、比較的多くのRNAシークエンス解析を行う予定であり、高額な支出が予想 される。さらに、海外での成果報告を予定しており、繰越研究費を加えることでこれらの支出をまかなう計画である。
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