野生型およびAID欠損マウスに対してDSS誘導性大腸炎モデルを用いて大腸炎を誘導し、異所性発現するAIDの役割をこれまで検証してきた結果、①細胞外マトリックス関連分子の発現が変化すること、そして②大腸炎に伴い減少した体重の回復が遅延すること、さらに③疾患スコアが野生型と比して有意に高くなることを明らかにしてきた。またAIDを安定発現する細胞株を使用する事でAID依存的に発現が約5倍以上と大きく変化する6遺伝子を同定していたが、野生型マウスにおいて大腸炎の有無に関わらず、標的遺伝子の発現量のバラツキにより有意差は認められなかった。そこで、DSSにより誘導される大腸炎は大腸粘膜において正常と炎症部位が混在(AIDの発現の有無も混在)する事が、その原因の1つであると考え次の実験を行った。 まず単離した6遺伝子のうちAID欠損型マウスにおいて大腸炎の誘導前と後において、その発現が低値のままだった3遺伝子を明らかにした。そこで次に、単離した3遺伝子とAIDが実際に結合しているかCHIP-qPCR解析を行ったところ、標的遺伝子のプロモーター領域にAIDが結合している可能性が示唆された。この結果より、AID依存的に標的遺伝子のプロモーター領域の脱メチル化が確認できるかBisulfite sequence解析とCOBRA法により検証したところ、AID安定発現細胞株の標的遺伝子においてのみ脱メチル化されているのを確認することができた。さらにAID安定発現細胞株に対してsiRNAを使用してAIDの発現を抑制したところ、siRNAによるAIDの発現低下と共に標的遺伝子の発現が低下することが確認できた。以上のことから炎症によって異所性発現するAIDは、標的遺伝子に結合することで脱メチル化を誘導し、その遺伝子の発現を調節している可能性を明らかにした。
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