研究課題/領域番号 |
20K08321
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
矢部 茂治 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 細胞組織再生医学研究部 上級研究員 (40533716)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グルカゴン / 膵α細胞 / ヒトiPS細胞 / アルギン酸fiber / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
本研究においてヒトiPS細胞から機能的膵α細胞を選択的かつ効率的に分化誘導する系を構築する事で、現在遅れているグルカゴン分泌機構等のヒト膵α細胞研究を推進する。糖尿病における高血糖状態にはインスリン不足のみでなくグルカゴン過剰分泌も主要因になっている事が示唆されており、ヒトα細胞のグルカゴン分泌機構の解明が非常に重要であるが、現在研究に使用できるヒト膵α細胞を入手する事は困難であるため、ヒトα細胞研究は遅れている。現在ヒトES/iPS細胞由来膵β細胞分化誘導については世界中で研究が進められて、多くの論文が発表され続けているが、ヒトES/iPS細胞由来膵α細胞分化誘導については現在まで2本論文が発表されているが、申請者が調べた限りではそれ以外の報告が無く未開拓の領域となっている。申請者は膵β細胞分化誘導系構築のために、様々に分化誘導系の条件検討をした際にドミナントに膵α細胞分化へと向かわせる条件を見出した。この分化コントロール法は現在まで報告が無く申請者独自の方法となっている。また分化誘導したα細胞をより機能的に成熟化する事および分泌異常系を構築するには長期培養系が重要となるが、分化誘導した細胞をアルギン酸で出来たfiberに封入することでマウス移植による生体内および生体外の培養において半年-1年間維持できる事を可能にした。本研究においてヒトiPS細胞由来膵α細胞分化誘導系の最適化、グルカゴンプロモーターにより蛍光タンパク質が発現するiPS細胞株の樹立による膵α細胞の可 視化による選別、分化誘導した膵α細胞の長期維持を可能とするアルギン酸によるファイバー化技術を用いたグルカゴン過剰分泌系の再現を行い、現在遅れてい るグルカゴン分泌機構等のヒト膵α細胞研究を推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目にヒトiPS細胞由来膵α細胞の基本的な分化誘導系を構築し、その分化系を元にしてヒトiPS細胞由来膵α細胞分化系に関する論文をpublishした。しかし、このprotocolで分化誘導すると細胞・spheroidの調子が悪くなりやすい傾向にあった。そこで、分化誘導に数多く使われる因子の中からこの事に関係する因子を同定し、この因子を使わずにより調子が良い細胞・spheroidを分化誘導するprotocolの改良を行った。また、グルカゴンプロモータにより蛍光タンパク質の発現がdriveされるヒトiPS細胞の樹立を試みた。当初はヒトグルカゴンプロモータの下流にtdTomatoを繋いだlentivirus constructを作成し、transfectantを得る予定であったが、うまくworkするグルカゴンプロモータ領域が得られなかった。そこで、プログルカゴン遺伝子に2A peptideでtdTomatoを繋いだconstructをCRISPER/Cas9のsystemeでヒトiPS細胞に導入してグルカゴンとtdTomatoタンパク質の両方が発現する事が可能なヒトiPS細胞を樹立した。このヒトiPS細胞を膵α細胞へ分化誘導すると、赤い蛍光を発する事を確認した。さらに膵α細胞をpurifyするために、セルソータであるMofloによるソートの条件検討等を行った。これらの結果からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1年目は効率的ヒトiPS細胞由来膵α細胞の分化誘導系を構築した。2年目はさらにこの分化誘導系の改良を行った。また、グルカゴンプロモーターにより蛍光タンパク質の発現がdriveされるヒトiPS細胞の樹立を行うために、CRISPER/Cas9のsystemを使い、プログルカゴン遺伝子に2A peptideでtdTomatoを繋いだconstructをCRISPER/Cas9のsystemeでヒトiPS細胞に導入してグルカゴンとtdTomatoタンパク質の両方が発現する事が可能なヒトiPS細胞を樹立した。3年目は、この樹立したiPS細胞を膵α細胞に分化誘導し、アルギン酸でfiber化して、生体外、および生体内で長期維持を行う。生体内の系ではSTZにより糖尿病にしたNOD/SCIDマウスに移植を行い、糖尿病状態にさらす事でグルカゴン分泌異常の再現を狙う。解析はマウスの血中グルカゴン量で判定するが、このfiberはマウス体内から取り出す事が可能であるので、取り出したfiberのグルカゴン分泌実験・免疫染色・qPCRなどによる解析も行う。生体外の系ではdish/wellにおいて培養液で培養し、高グルコース、脂質などの糖尿病からくるストレス因子で負荷を掛けてグルカゴン分泌異常状態を再現する。コントロールとしては生体内においては正常なマウスへの移植、生体外ではグルコール、脂質等の負荷を掛けない培地で維持してグルカゴン分泌実験・免疫染色・qPCRなどで比較解析を行う。また解析の結果、効果的に分泌異常を再現出来たサンプルとコントロール間においてRNA-sequence等で網羅的遺伝子発現解析を行う。
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