前年度から引き続きマウス膵島内でのドパミン産生能を持つβ細胞(Tyrosine Hydroxylase(TH)陽性)が周囲のTH陰性β細胞に対してドパミンを介したインスリン分泌抑制と脱分化の抑制を示すメカニズムについて詳細に解析を進めた。 これまでに試作したパリレンコートを施したガラス面の作成方法を確立し、さらには2次元的な任意のTH陽性細胞と陰性細胞の配置を可能としたことにより、TH陽性細胞の近位に位置するβ細胞は活性酸素種(ROS)濃度が高いことがわかり、この原因としてTH陽性β細胞から供給されるドパミンが細胞質内のモノアミンオキシダーゼBによりROSへと変換されることが原因であると推察している。 また、マウス膵島を単離後に単細胞へとトリプシン消化を施し、さらなる再凝集によって疑似膵島を再構築する実験系を構築した。通常野生型マウスの膵島を再凝集するとその後10-14日間でβ細胞の成熟化マーカーであるPdx1やMafA、Nkx6.1といった遺伝子の発現量はおおむね20%以下になることもわかった。 この実験系を用いて一定の割合のβ細胞にTHを強制発現することで、細胞塊全体としてのインスリン分泌量が低下するが、β細胞の成熟化に関与する遺伝子群の発現の低下が抑制できることを明らかにした。 さらに、ヒトiPS細胞へのゲノム編集技術を用いてTHおよびドパミン貯蔵に関連する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)遺伝子の強制発現系を構築した。これらのiPS細胞株は、およそ1か月の分化培養によってインスリンを産生するβ細胞に分化誘導した後、マウス膵島と同様に細胞塊内β細胞のインスリン分泌能の維持に寄与するかどうか検討中である。
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