研究課題/領域番号 |
20K08329
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 健 京都大学, 医学研究科, 助教 (60594372)
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研究分担者 |
石井 健 東京大学, 医科学研究所, 教授 (00448086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん免疫 / 自然免疫 / ワクチン / 消化器がん |
研究実績の概要 |
腫瘍局所の免疫を賦活化するin situワクチン療法は、病変部への近接が可能な消化器癌領域では臨床応用に結びつきやすい。本研究は、光免疫療法(photoimmunotherapy: PIT)とナノ粒子のTLR9リガンド“K3-SPG”の併用により腫瘍局所の癌抗原放出と自然免疫活性化を最大化した膵癌に対するin situワクチンの開発を目標としている。初年度は、PITの実験系を確立した。PITでは近赤外線感受性のIR700を結合させた標的抗原に対する抗体を必要とする。本研究ではPITの標的抗原をMSLNとCD44に設定し、初年度は抗CD44抗体にIR700を結合させたIR-CD44 Abを作成した。膵癌を自然発症するKPCマウスから樹立された膵癌細胞株(KPC-Pan)と2種類のマウス大腸癌細胞株(MC38, Colon26)を用意し、これらの細胞でCD44の発現をFACSと免疫染色で確認した。次に、これら3種類の細胞株を用いてin vitroにおけるPITの細胞破壊効果を解析したところ、全ての細胞株でPITによる著明な細胞破壊が確認された。また、これら3種類の細胞株をそれぞれマウスの皮下に移植した膵癌モデルと大腸癌モデルにIR-CD44 Abを投与したところ、IVIS観察で腫瘍部位におけるIR700蛍光シグナルの集積が確認された。次に、これらの膵癌と大腸癌のモデルマウスで、IR-CD44 Abを用いてPITを行ったところ、全てのモデルにおいて腫瘍退縮効果が確認された。初年度にPITの実験系が確立されたが、ここで用いた膵癌と大腸癌のモデルマウスは、K3-SPGによるin situワクチンの抗腫瘍効果が示されており、次年度以降、PIT/K3-SPG併用療法の実験にスムーズに移行できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PITの実験系を確立した。PITでは近赤外光感受性のIR700を結合させた標的抗原に対する抗体を必要とする。本研究ではPITの標的抗原をMSLNとCD44に設定し、はじめに抗CD44抗体にIR700を結合させたIR-CD44 Abを作成した。抗体とIR700の平均比率が1:2になるように作製し、SDS-PAGEで分離後に蛋白染色と700 nm波長での蛍光評価を行い、IR-CD44 Abの生成を確認した。K3-SPGの抗腫瘍効果が確認されている膵癌細胞株(KPC-Pan)と2種類のマウス大腸癌細胞株(MC38、Colon26)で、CD44 抗体を用いたFACS解析と免疫染色でこれらの細胞株におけるCD44の発現を確認した。KPC-Pan、MC38、Colon26をin vitroで培養し、IR-CD44 Abの培地への添加後にPITを行い、PITによる細胞死誘導を顕微鏡的観察と回収細胞のPI染色によるFACS解析で確認した。次に、KPC-Pan、MC38、Colon26の皮下移植モデルマウスに、IR-CD44 AbをPIT前日に投与し翌日PITを施行し、全てのモデルマウスで腫瘍増殖抑制を確認した。なお、腫瘍へのIR-CD44 Ab集積は、PIT直前におこなったIVIS観察で確認した。
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今後の研究の推進方策 |
PITはLTAR効果に優れるが、さらなる特徴として経静脈投与(intravenous injection: iv)されたナノ粒子の腫瘍部への集積を亢進させる(SUPR効果)。申請者のこれまでの研究は、K3-SPGの腫瘍内への局注が主であったが、K3-SPGはナノ粒子であるためPITによるSUPR効果が期待できる。そこでPITと併用するK3-SPGの投与ルートはivとし、強い抗腫瘍効果を示しながらも、病変への光照射のみで穿刺を要さない簡便かつ安全なin situワクチンの開発を目指す。そこで、次年度以降、IR-CD44 Ab 投与後にPITを施したマウスにAlexa647で蛍光標識したK3-SPGをiv投与し、in vivo蛍光イメージングでK3-SPGの体内分布を解析し、K3-SPGの腫瘍への集積の程度をPIT 未施行群と比較し、PITのK3-SPG に対するSUPR効果を明らかにする。そのうえで、PITとK3-SPG-ivの併用療法(PIT/K3-SPG-iv)の抗腫瘍効果を明らかにする。PIT/K3-SPG-ivによる腫瘍免疫誘導能は、免疫記憶の成立、未治療部位での腫瘍退縮効果(abscopal効果)で明らかにする。免疫記憶はPIT/K3-SPG-ivで腫瘍が退縮したマウスの皮下に同種類の腫瘍細胞株を再移植し、腫瘍の生着率を同週齢のコントロールマウスに同じ細胞株を移植した場合と比較する。Abscopal効果は、PIT側と対側の皮下に移植した腫瘍の退縮効果で評価する。PIT/K3-SPG-ivの比較対象群としては、無治療群、K3-SPG単独治療群、PIT単独治療群の各コホートを設定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナ感染症の社会問題が生じ、学会参加のための旅費が発生しなかったためで、次年度以降の感染蔓延状況にもよるが、事態が収束方向に向かえば積極的に学会参加をおこなっていく予定である。
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