研究課題
慢性肝疾患の進行により肝不全に至った患者に対して、肝臓移植の代替となる適応の広い低侵襲な慢性肝不全の治療法を開発することは、肝臓臨床の現況において重要な研究テーマである。本研究は、慢性肝不全の病態をひき起こしている肝細胞のTCA回路および酸化的リン酸化経路のエネルギー代謝異常に着目し、代謝関連遺伝子およびミトコンドリアを標的とした手法により、肝細胞のエネルギー合成能の改善、さらには肝細胞が有する総合的な代謝機能の改善が得られるかについて検証し、ヒト慢性肝不全に対する新規治療の開発に資する治療標的の同定を目的とする。その実現に向けた取り組みとして、研究成果は主に以下の3点に分けられる。1.新規治療の開発に向けたヒト慢性肝不全の病態に類似した動物マウスモデルの作出のため、以前にも検証した四塩化炭素(CCl4)の腹腔内継続投与で肝の評価を行い、理想的なモデルを確立できた。2.上記のラットモデルから採取した分離肝細胞をin vitroの条件で培養し、細胞機能について解析を行った結果、正常肝細胞と比較して病態肝からの肝細胞ではATP合成能の低下と、解糖系およびミトコンドリア経路での代謝機能の変化が確認できた。3.同モデルで以前に行ったmRNAアレイのデータを再解析し、解糖系、TCAサイクル、酸化的リン酸化経路の構成因子で、肝不全に伴い変化の生じる遺伝子の探索を行った。またヒト肝細胞のアレイデータと比較し、動物モデルとヒト臨床症例で共通して変化がみられる遺伝子群の同定ができた。以上の結果より、今後ヒト慢性肝不全に対する新規治療を開発していくうえで、その効果について動物モデルで検証可能なより具体的な候補遺伝子が特定できた点で、本研究は意義があったと考える。
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