研究課題
癌抑制性マイクロRNA(miRNA)の発現・機能異常が肝癌の発症や悪性化と関連することが指摘されている。申請者は今までに、1) C型肝炎ウイルス(HCV)感染によりmiR-122をはじめとする癌抑制性miRNAの機能障害が引き起こされること、2) miR-122の機能障害はアミノ酸トランスポーターの発現を増強させ、肝癌細胞の増殖を促進させることを見出した。本研究では、さらに以下の2項目の達成を目的とした。1) miR-122以外の癌抑制性miRNAに着目し、HCVがこれらのmiRNAの機能障害を引き起こす分子メカニズム(標的宿主因子)を明らかにすること、2) 癌抑制性miRNAの機能障害が肝癌細胞の増殖能に与える影響を解析し、その過程に関与する宿主因子を同定すること、である。2020年度は、主に、miR-122以外の癌抑制性miRNAの機能障害に関与する宿主蛋白質の探索を行った。HCVが標的とする宿主細胞性因子を同定するために、miRNAの成熟化に関与する宿主因子のノックダウンおよび過剰発現実験を行った。その結果、microRNA-induced silencing complex(miRISC)の構成因子のうち、AGO蛋白質のノックダウンがsubgenomic replicon細胞におけるmiRNA機能を有意に抑制した。反対に、AGO蛋白質の過剰発現はHCV感染細胞におけるmiRNA機能を顕著に回復した。以上の結果より、HCVがAGO蛋白質を中心とするmiRISCを標的とし、その機能を障害することで、miR-122以外の癌抑制性miRNAの機能不全を惹起する可能性が示唆された。
3: やや遅れている
COVID-19の拡散による勤務制限、研究資材の調達不足により、一部の研究(免疫沈降実験、miRNA機能不全細胞の樹立)の進捗が当初の計画よりやや遅れている。
HCV感染が癌抑制性miRNAの機能障害を引き起こす分子メカニズム(HCVの標的宿主因子)を明らかにするために、以下の3つの検討を行う。1) miRNAの機能発現に関与する宿主因子の中からHCV結合蛋白質を免疫沈降実験により同定する。2) HCV結合蛋白質のノックダウンおよび過剰発現細胞を作製し、miRNAの機能を評価する。3) HCV感染細胞を用いてHCV結合蛋白質とmiRNA間の相互作用を精査する。癌抑制性miRNAの機能障害が肝癌細胞の増殖能に与える影響を解析し、その過程に関与する宿主因子を同定するために、以下の4つの検討を行う。1) 癌抑制性miRNAの機能不全細胞を作製する。2) miRNAの機能不全に伴う癌・増殖関連遺伝子の発現変化を精査する。3) miRNA機能不全細胞の増殖能、遊走能、浸潤能を評価する。4) miRNA機能不全細胞をヌードマウスに移植し、腫瘍形成能を評価する。
COVID-19の拡散による勤務制限、研究資材の調達不足により、当該年度に予定していた一部の研究(免疫沈降実験、miRNA機能不全細胞の樹立)の遂行に遅れが生じたため。次年度使用額は、遅れが生じた研究の遂行に使用するとともに、次年度以降に予定している研究の受託解析費(マイクロアレイ解析費)や動物実験・飼育費(ヌードマウス購入費)などに充てる予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (14件) 図書 (1件)
Journal of Gastroenterology and Hepatology
巻: 36 ページ: 1126~1135
10.1111/jgh.15224
Infectious Agents Surveillance Report(IASR)
巻: 42 ページ: 5~6
Journal of Infection and Chemotherapy
巻: 26 ページ: 769~774
10.1016/j.jiac.2020.04.018
Human Cell
巻: 33 ページ: 590~598
10.1007/s13577-020-00383-1
Biochemistry and Biophysics Reports
巻: 24 ページ: 100855~100855
10.1016/j.bbrep.2020.100855