研究課題
マイクロRNA(miRNA)はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染複製増殖に極めて重要な役割を有しており、特にmiR-122はその代表格である。同時に、miRNAは宿主細胞の正常な機能維持のために必須な要素でもある。したがって、HCV感染細胞内ではウイルスによりmiRNA(もしくはその機能)がハイジャックされ、宿主細胞が本来保持する機能が障害されている可能性がある。政木らは、これまでに、① HCV感染が広範囲な宿主miRNAの機能低下を引き起こすこと、② miR-122をはじめとするmiRNAの機能低下により肝癌細胞の増殖能が亢進することを見出した。これらの結果は、C型肝炎を背景とする肝癌の発症・悪性化機構を理解する上で有力な手がかりとなる。令和3年度は、網羅的なスクリーニング法を用いて、HCVの感染複製増殖および病原性発現に関与するmiR-122以外の新規miRNAの同定を試み、以下の結果を得た。1)HCVの細胞培養系とmiRNA mimic/inhibitorライブラリーを使用して、HCVの感染複製増殖に関与する既知のmiRNAs(miR-181a-5p、miR-199a-3p、miR-29a-3pなど)を高い再現性を持って同定した。さらに、本スクリーニング法を用いて、HCVの感染複製増殖を制御する複数種類の新規miRNAを同定した。2)上記スクリーニングとマイクロアレイを駆使することにより、HCVの感染複製増殖を負に制御するmiRNAとしてmiR-762を同定した。また、C型慢性肝炎患者の血清を用いたマイクロアレイ解析により、miR-762発現量が抗HCV療法の治療効果と相関することを見出した。血清miR-762量は治療著功例で上昇し、治療不応例もしくは再燃例で低下した。したがって、血清miR-762量がC型慢性肝炎の治療効果モニタリングに利用できる可能性が示された。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの感染拡大による勤務制限、研究資材の調達不足により、一部の研究(免疫沈降実験、miRNA機能不全細胞の樹立)の進捗が当初の計画よりやや遅れている。
令和4年度は、in silico解析およびmiRNA mimic/inhibitorを用いた細胞培養実験により、新規同定miRNAの標的遺伝子を探索する。さらに、新規同定miRNAもしくはその標的遺伝子発現を制御した肝細胞を樹立し、増殖能、腫瘍形成能、細胞周期、抗癌剤への反応性などをin vitro(細胞培養実験)およびin vivo(ヌードマウスへの移植実験)で評価する予定である。
新型コロナウイルスの感染拡大による勤務制限、研究資材の調達不足により、当該年度に予定していた一部の研究(免疫沈降実験、miRNA機能不全細胞の樹立)の遂行に遅れが生じたため。次年度使用額は、遅れが生じた研究の遂行に使用するとともに、予定している研究の受託解析費(マイクロアレイ解析費)や動物実験・飼育費(ヌードマウス購入費)などに充てる予定である。
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