研究課題
糖尿病で発現・活性が上昇する糖転移酵素であるN-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)転移酵素(OGT)とα1,6-フコース転移酵素(FUT8) の高発現マウス(Ogt-Tg, Fut8-Tg)に対して、炎症性発癌物質DMH/DSSの暴露(大腸癌)、膵臓癌細胞の移植といった様々な方法により形成された担癌の状態、程度を野生型マウスと比較することにより、癌周囲環境の糖鎖の変化が癌の発症、増殖、転移に与える影響を検討し、その分子メカニズムを解明するのが本研究の目的である。研究代表者らは癌周囲環境のO-GlcNAc修飾が癌の発症、増殖を亢進させること及びそのメカニズムについてすでに報告しているので、2020年度は転移への影響について検討した。まずマウス膵癌細胞株Panc2をマウスの膵臓に同所移植し、転移巣から癌細胞を採取し培養するというのを3回繰り返すことによって、高転移株Panc2-T3Mを作製した。Panc2-T3Mにルシフェラーゼを恒常発現させ、ルシフェラーゼ恒常発現Panc2-T3Mを樹立した。ルシフェラーゼ恒常発現癌細胞をマウスに移植した後にルシフェリンを腹腔内投与すると、in vivo発光・蛍光イメージングシステムでその発光を感知することができ、マウスでの癌の増殖、転移を経時的に観察することができる。このシステムを用いて、樹立したルシフェラーゼ恒常発現Panc2-T3Mを野生型と Ogt-Tgマウスの膵臓に同所移植し、経時的に観察することにより転移の程度を比較した。その結果、Ogt-Tgマウスに移植したPanc2-T3Mの方が、肝臓、脾臓などの多臓器に転移しやすいことが分かった。再現性の確認が必要であるが、癌周囲環境のO-GlcNAc修飾の亢進が、膵癌の周囲臓器への転移を促進している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ルシフェラーゼ恒常発現Panc2-T3Mは比較的スムーズに樹立することができた。マウスへ同所移植後の播種による転移は容易に確認できたが、遠隔転移の確認がうまく行っていない。遠隔転移がはっきりするまでマウスが生存できないということも考えられる。遠隔転移については難航しているが、おおむね順調と考えられる。
今後も引き続き、周囲環境のO-GlcNAc修飾が癌の転移に与える影響について、樹立したルシフェラーゼ恒常発現Panc2-T3MをOgt-Tgマウスの膵臓に同所移植し、癌の転移に与える影響をWTへの移植と比較し、有意差検定を試みる。遠隔転移に対する影響が確認できるように移植するがん細胞の数や移植方法を検討する。同時に、周囲環境のO-GlcNAc修飾が亢進することにより転移が促進するメカニズムについて解析する。また、周囲環境のコアフコース修飾の亢進が癌の増殖、転移に与える影響についてもFut8-Tgマウスを用い検討していく予定である。また、Fut8-Tgマウスを用いて周囲環境のコアフコース修飾の亢進が大腸癌の発症に与える影響を検討する。方法としては、Fut8-Tgマウスに1,2ジメチルヒドラジン(DMH) を20mg/kgを3 回皮下注後、3 % デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を経口投与し(化学発癌)、発癌の時期や増殖の程度等を野生型マウスと比較することにより検討する。
学会がWeb開催になり予定していた旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度はFut8-Tgマウスを用いた実験が始まるため、その費用に充当する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Oncology Letter
巻: 20 ページ: 1171-1178