研究実績の概要 |
まず,肝細胞癌におけるTCF-4 isoformの高精度解析を実現するため,ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acids, PNA) を用いた特異的qPCRシステムを構築した.これにより,従来,densitometryによる半定量的解析しかできなかったTCF-4 isoformの測定が高精度に可能となった. 次に,種々のヒト癌細胞を用いて4種のTCF-4 isoform(A, B, J, K)を測定した.使用した細胞は,ヒト肝細胞癌細胞株(HAK-1A, HAK-1B, Hep3B),胃癌細胞株(MKN74),膵癌細胞株(PANC1, BxPC-3),大腸癌細胞株(HCT-119, HT-29)の8種類である.胃癌や大腸癌でJ型の発現が高いことがわかった.このJ型は,これまで我々が肝癌の悪性化と関連するisoformとして注目してきたタイプである(Exp Cell Res 2011; PLoS One 2012; Cancer Lett 2013).この結果を踏まえ,さらに特徴的形質を持った5種の肝癌細胞株(HAK-5(肉腫様肝癌),KMCH-1, KMCH-2(混合型肝癌),HepG2(肝芽腫))とヒト胎児由来不死化肝細胞(OUMS-29)においてもisoform解析を行った.その結果,J型はHepG2やOUMS-29でも比較的強い発現が見られた.腺癌形質を有する混合型肝癌ではJ型の発現増強は見られなかった.肝よりもむしろ胃や大腸などの消化管の癌のほうがTCF-4 J型が強く発現していて,Wnt/beta-catenin/TCF-4経路の活性化が起こっている可能性が示唆された.また,TCF-4 isoformのプロファイリングを行うことで,canonical pathwayが活性化している癌(大腸癌や胃癌)とそうでない癌(肝癌や膵癌)とに分けることができる可能性が示唆された.
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