研究課題
日本をはじめ世界的に大腸がんが増加しています。この主な要因として肥満、メタボリックシンドロームの増加が挙げられます。この肥満、メタボリックシンドロームの病態の中核にはインスリン抵抗性やアディポサイトカイン分泌異常、慢性低炎症状態があるとされ、これらが大腸がんの危険因子と考えられています。しかし、このような肥満やMSに伴う体の変調がどのように発がんを引き起こすのか、その分子機序は不明な点が多いのが現状です。最近、肥満やメタボリックシンドロームとRNA転写後制御に関わるRNA結合蛋白であるHuRの機能異常が関連することが報告されました。このHuRは細胞のエネルギーセンサーとされるAMPKにより制御を受けており、また大腸がんではHuR機能異常があるとした報告があります。これらのことからHuRによるRNA転写後調節が肥満に伴う大腸がんの発育進展に重要な役割を果たしているのではないかと考えました。そこで本研究では大腸がん組織、細胞株、動物モデルを用いて、肥満大腸発がんにおけるHuRの機能変化とその標的となるmRNAを同定し、それが大腸発がんに対してどのような影響を与えるのかを詳しく調べます。これにより大腸がんの新しい診断や治療戦略を創出することを目指しています。本年度は、肥満を伴う大腸がん組織では、核と細胞質内のHuRの発現レベル比の低下を明らかにしました。また大腸がん細胞株にインスリンやインクレチンを投与すると、HuRの細胞質内への移行が助長され、結合するmRNA量が増加することが分かりました。細胞質内移行が助長された条件下でHuRに結合したmRNAsを抽出し、網羅的なトランスクリプトーム解析を行いました。インスリン、インクレチン投与下で、HuRとの結合レベルに2倍以上の変化があるmRNAをそれぞれ39、22種類同定できました。現在、それらの機能解析や安定性の解析を行っています。
2: おおむね順調に進展している
予定どおりの解析ができ、また新しい知見が得られており、研究は順調に進んでいると考えられる。
高グルコースや高インスリン状態、飽和(パルミチン酸)・不飽和脂肪酸(オレイン酸)、及びこれまで申請者らが肥満関連大腸腫瘍との関連性を見出してきたアディポネクチン、IL-6、インクレチンを複数の大腸がん細胞株へ投与し、細胞増殖活性とHuRの核細胞質輸送、HuRおよびAMPKの発現やリン酸化の変化との関連性を明らかにします。更に、AICAR投与によるAMPKの活性化もしくはdorsomorphin投与による抑制、またはHuR siRNAによるHuRの抑制を行うことで、各因子が細胞増殖に与えるAMPKおよびHuRの依存度を解明します。また、actinomycin Dの投与によりRNAポリメラーゼを阻害し転写を停止させ、2020年度に見出した標的mRNAをRT-qPCRにて経時的に定量し、半減期を算出することで、その安定性が変化しているかどうかを明らかにします。
コロナウイス感染の蔓延に伴い学会がWeb発表主体となったため、当初予定していたものより旅費が抑えられました。一方で、研究が順調に進み、トランスクリプトーム解析の経費が増えました。総じて、次年度使用が生じましたが、予想以上に多種の標的mRNAが同定されたため、RT-qPCRに係る経費等の増加が見込まれ、この分を次年度使用分にて補完させていただき、研究を遂行する予定です。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
消化器・肝臓内科
巻: 8 ページ: 341-348