研究課題/領域番号 |
20K08351
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
池原 早苗 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (50598779)
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研究分担者 |
山口 高志 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (60626563)
東 和彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 技術専門職員 (80422260)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膵炎 / BKウイルス / 不顕性感染 / 遺伝子改変マウスモデル |
研究実績の概要 |
①DOX誘導BK-LT膵炎マウスの病理学的解析として、前年度までに得られていた「DOX投与-膵炎誘導により変化する遺伝子発現プロファイル結果」を検証するために2回目の解析検討を行った。RNA-seq解析は膵臓の凍結保存検体とホルマリン固定・パラフィン包埋標本より抽出したRNAより行い、BK-LTマウスに加えて、ドキシサイクリン(DOX)投与でSV40-LTの発現が誘導される遺伝子改変マウスより採取した各群7匹のDOX投与開始前(0日目)、投与開始後7、14、28日目を対象とした。解析と比較検討の結果から、ポリオーマウイルス感染並びにBK-LTタンパク質の発現誘導が膵炎を発症すること、そしてその経時的な遺伝子発現プロファイル変化の特徴を明らかにした。さらに、BK-LTマウスで高脂肪食の投与実験と病理学的解析を行ったことで、高脂肪食が膵壊死を伴う膵炎への進展を促すなど、膵炎の活動性を亢進せしめる効果を見出した。 ②免疫学的解析では、DOX投与開始後14日目の膵組織より回収した細胞でのFACS解析により行い、single cell RNA-seq解析を2回、行った。1回に5匹のマウス膵組織を使用し、回収された細胞数はそれぞれ1.2万個と1.1万個で、ソートして回収したCD45陽性細胞は2600個前後であったため、これらを対象にsingle cell RNA-seq解析を進めた。 ③BK-LTを特異的に検出できるモノクローナル抗体を使用して、市販の膵疾患組織マイクロアレイ(TMA)を解析し、その陽性率は20~30%(総数352spot)となることを明らかにした。 代表者の作成したBK-LTマウス膵炎の解析から、BK-LTタンパク質には膵炎誘発能があり、またヒトの膵組織にBKウイルス感染の痕跡を見出せることから、BKウイルスはヒト膵炎の原因になっている可能性を明らかにできたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況がおおむね順調に進展しているとした理由は、前年度に引き続いて①DOX誘導BK-LT膵炎マウスの病理学的解析を実施して再現性検証を完了できたためである。事実、BK-LTの発現による膵炎の経時的な遺伝子発現プロファイル変化の特徴を明らかにするとともに、高脂肪食は膵壊死を伴う膵炎へ進展を促すなどのエビデンスを取得することができた。加えて、③で調製したBK-LTを特異的に検出できるモノクローナル抗体を使用してTMA解析を実施し、その結果からBKウイルスがヒト膵炎の原因になっている可能性を明らかにできたからである。また、②免疫学的解析においても、予定したsingle cell RNA-seq解析を2回行っており、当初の計画どおりの進展であると判断している。 本研究では、BKウイルスタンパク質が膵炎発症の原因になりうることのエビデンスを取得するために、DOX依存的にBKウイルスのLarge T(BK-LT)抗原を膵臓特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製し、生産して使用してきた。前述のような結果を得られていることから当初の計画通り、常在性・不顕性感染のBKウイルスが、膵炎発症に関係する証拠を積み重ねつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるが、予定した研究計画を順調に遂行できており、計画変更はない。主な実施予定は、DOX誘導BK-LT膵炎マウスの免疫学的解析への取り組みである。DOX投与28日目以降に存在する炎症細胞を対象としたsingle cell RNA-seq解析を行って、炎症状態からの寛解と密接に関連する免疫記憶機構の手がかりを探索する。また、今年度に引き続き、高脂肪食投与群と非投与群とを比較することで、食餌による免疫記憶への影響を検索することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はDOX誘導BK-LT膵炎マウスについて、高脂肪食を投与して行う検討を開始することが出来たが、実験に使用する遺伝子組換えマウスの生産が少なかったため、使用匹数を限定して二群間での比較実験となった。このため次年度使用額が生じた状況となっている。2022年度は、本研究を進めるにあたって必要十分な匹数の遺伝子組換えマウスを確保できるよう、飼育スペースの調整を行ったことから、当初の計画どおりの解析は可能と考える。
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