研究実績の概要 |
ロイシンジッパー型転写因子であるMAF (musculoaponeurotic fibrosarcoma) はトリ肉腫ウイルスより癌遺伝子として単離され、乳癌や多発性骨髄腫では癌遺伝子の機能をもつ事が報告されている。一方、トリの水晶体の分化においては、Mafが癌抑制遺伝子p27kip1を誘導することで細胞周期を停止させること、末梢神経腫瘍では in vitro実験で癌抑制的な働きが報告されていることからMAFの機能には器官特異的に癌抑制遺伝子としての作用もあるとみられる。大腸癌は多段階発癌の過程で、本研究では、MAFの大腸癌の発生・進展における役割を明らかとすることを目的とした。①大腸正常粘膜80例, 腺腫内癌20例, 大腸癌80例を用いてMAFの免疫染色を行った。MAFは大腸上皮細胞や癌細胞に発現しており、腫瘍部では早期癌から発現の低下を認めた。またP53の異常蛋白蓄積とMAFは相補的な発現パターンを取った。②IEC18, HCT116を用いたin vitro 実験では、コロニー形成能、増殖性、抗癌剤感受性、アポトーシス誘導などの点でMAFは癌抑制的に働いた。p53-/- HCT116細胞にp53変異(R175H, R248W)を導入するとmiR-155が誘導され、MAF発現が減少したことからp53変異はMAFの発現低下を加速させるものと考えられた。③ MAFノックアウトマウスによる腫瘍促進効果の検証:遺伝子欠失や塩基置換を伴った(1塩基欠損, 8塩基欠損, 52塩基欠損)3種類のMAFノックアウトマウスを作成し、アゾキシメタンとデキストラン硫酸ナトリウムを投与し大腸腫瘍を作成した。現在順次マウスを回収しその結果が明らかとなりつつある。
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