研究実績の概要 |
ロイシンジッパー型転写因子であるMAF(musculoaponeurotic fibrosarcoma)はトリ肉腫ウイルスより癌遺伝子として単離され、乳癌や多発性骨髄腫で癌遺伝子の機能をもつ事が報告されている。大腸におけるMAF遺伝子の役割は解明されておらず、本研究は大腸癌の発生・進展におけるMAF遺伝子の役割を明らかとすることを目的とした。(方法と結果)①大腸の正常粘膜と癌組織においてMAFタンパク発現を免疫染色で調べた。早期癌の段階からMAFタンパク発現の低下がみられ、MAFの発現が低下した大腸癌は予後不良であった。また癌組織の変異p53タンパクの蓄積とMAFタンパク発現は逆相関していた。② IEC18ラット腸上皮細胞や大腸癌細胞HCT1 16にMAF遺伝子を導入し細胞性質を評価した。MAF遺伝子導入IEC18の増殖能は低下し、HCT116の5-FUに対する抗癌剤感受性は増強された。③ MAF KOマウスを作成し、大腸の化学発癌過程での腫瘍形成能を検討した。MAFノックアウトマウス(1,8,52塩基欠損)を用いてAOM(アゾキシメタン)+DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を用いた化学発癌実験を行ったところ、MAFノックアウトマウスは野生型マウスと比べて腫瘍形成数の増加と腫瘍サイズの増大がみられた。MAFノックアウトマウスの腫瘍部では野生型の腫瘍と比較して有意にKi-67 indexが高く細胞増殖活性の増加がみられた。RNA-seqの結果、MAFノックアウトマウスの正常部ではcell cycle関連遺伝子の発現が亢進していることが明らかとなり、腫瘍部では上皮成長因子をはじめとして癌促進的な遺伝子が多数活性化していた。以上の結果を踏まえ、MAF遺伝子は大腸では癌抑制的に働くことが明らかとなり、この研究成果はCell Pressの系列誌であるiScienceに公表した。
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